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第八章 4

 ウイの言葉でトワは動きを止めた。  立ち上がったトワの口許が動く。低く呟く声はソウの元までは届かない。  トワが扉に向かって歩いて来る。  ソウは今来た(てい)を装った。トワが出てくるタイミングを見計らって中に入る。 「ユエ!」  トワとはぶつかりそうになった。  その時ちらっとこちらを見た彼の目は、暗く沈んでいるようだった。 (すまない、トワ)  自分の自尊心の為に今まで放置していたなど口が裂けても言えず、心の中で謝るのみ。  ユエに走り寄って抱き起こす。  扉の向こうからでは余り良く見えていなかったが、服も手も血で汚れていた。 (これは……いったい) 「ったく、遅いんだよ」  ウイに事情を聞こうと思った矢先、低く毒づかれた。  もっと前から自分がいたことには気づいていないようだ。 「何があったんだ」  ユエを抱きながらウイに訪ねた。  今トワとの間にあったことではない。何故、ユエが血に(まみ)れいるのかということだ。  ウイは何も言わず顎を刳って、少し開いた天蓋のカーテンの向こうを示した。  ソウもその視線を追う。 (あそこに……何か……)  ごくっと喉許が鳴る。  恐らくそこにはーー自分の想像する通りのものがある筈だ。  ウイは無言で二人の脇をすり抜けて行った。  一瞬だけかち合った目には自分に対しての憤りが揺らいでいた。 「ちょっと待って」  そう前置きして手を離した。 「あお……」  身体を離しただけでも不安げに声を震わす。 「ゆい、大丈夫だ」  安心させるように背をひと撫でしてからベッドへ近づく。  ユエには余り見せないように、少し(ひら)いた隙間から覗き込んだ。 (ましろ……)  そこには紅く染まった、ぬいぐるみのようにくたりとした『何か』とペティナイフが転がっていた。  想像通りだった。  ソウは黙って少しだけ開いていたカーテンをきっちりと閉め切った。  ユエの元に戻り、 「立って。俺の部屋に行こう」  そう言って立ち上がらせた。  全く動こうとしないユエの血染めの服を全て脱がせた。服は脱衣場のゴミ箱へ。ユエは浴室に押し込めた。  押し込めたが何もせず、突っ立ったままなので、仕方なくソウも服のまま浴室に入った。  ユエの頭からシャワーのお湯を浴びせた。  一旦止めるとぶるぶるっと犬のように頭を振って水気を飛ばしている。  ボディソープを泡立て、立ったままのユエの身体を素手で洗う。  背中を洗い、背中越しに腹から太腿辺りまで手を滑らせた。 (こいつ……勃ってやがる……)  ユエの肉体(からだ)の変化には、気がつかない振りをした。 「うわっ」  ソウが驚いて声を上げた。  一瞬何が起きたのかわからなかった。熱い迸りが頭を打ちつけた。  ユエがシャワーの蛇口を捻ったのだ。作りつけのシャワーはソウの頭上にあり、二人纏めて湯を浴びることとなった。 「なにするっ」  

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