4 / 23
第4話 ありのままの君が好き!
★1話完結型です。
彼女に振られた。
しかも浮気されて。
相手は大手企業のイケメン、キラッキラのエリート。
そりゃ仕方ないかなとも思う。
そんな俺を慰めるために、東海林が飲みに誘ってくれた。
東海林は新卒入社の同期。
端正な顔立ちで、仕事もできる。
一方、俺はまあまあ鈍臭い。
周りに疎まれるほどではないが、近くに東海林がいると見劣りする。
まあ、仕方ないことだ。
東海林はそんな状況を鼻にかけることもなく爽やかで、お互い助け合いながら仕事をしてきた。
一軒目は居酒屋で彼女と浮気相手への愚痴を吐き、二軒目はバーでモテない自分と将来への不安を吐露し、三軒目…として、東海林のアパートで宅飲みになった。
そして気づいたら、東海林とキスをしていた。
東海林に抱きしめられ、頭を押さえられて動けない。
俺は、東海林に噛みついて、怯んだところでバッグと上着を掴んでアパートから逃げた。
なんでそんなことになったのか、全然記憶にない。
俺がその気にさせるようなことを言ったのだろうか?
だとしてキスはしないだろう。
東海林が俺を好きだってことか?
東海林のことは友人として好きなだけで、まさか恋愛対象ではない。
明日……どんな顔をして会社で会えばいいのだろう……。
♢♢♢
彼女に振られたくらいで、将来まで悲観する北村はとても可愛かった。
将来なんて、俺と一緒に暮らせばどうにでもなるのに。
こうやって毎日一緒に飲んで過ごせたらどんなに楽しいか。
そう考えてたら、気持ちが昂って手を出してしまった。
翌日会社に行き、北村に挨拶するが目を合わせてくれない。
仕事で話しかけても、なんだかつれない。
わかる、わかるよ。
情事があった翌日は緊張するよな。
でも、キスしかしてないのにそうなるっていうのは、なかなかに奥手だ。
逆に周りから、二人に何かあったんじゃないか、って思われてしまう。
帰りも、いつもなら雑談をしていくのにそそくさと帰ってしまった。
まあ、会社内で雑談したところでたかがしれてるからな。
二人の時間を多くしたいということだろう。
彼女とは別れて正解だと思うよ。
いつもブランド物をねだってたし。
北村の給料じゃ分不相応だ。
デートだって、自然が好きな北村が湖に連れて行ったら、あからさまに彼女はテンション下がってたよね。
見た目も、整形か!ってくらいバキバキにメイクしてるし。
レストランも、いつもちょっと高いとこを指定してる。
クレジットの明細が大変なことになってたじゃないか。
俺とラーメン屋に行く方が幸せだって。
彼女とは出会って3回目のデートで付き合い始めてたけど、それはちょっと早かったと思うよ。
やっぱり、価値観や生活が合わないと長くないなって。
北村は、朝ごはんは和食だし、朝シャワーだよね。
これで彼女が、朝はパン派だったらもう破綻だ。
忙しい朝に二人とも朝シャワーじゃ大変だろう。
お昼はいつもコンビニで、夜はうどんが多いよね。
野菜が足りないのが心配だよ。
夜の過ごし方は専ら動画視聴。
アプリゲームはやらない。
テレビ見るなら、意外と硬派なNHK。
本はあまり読まなくて、入社1年目に買ったビジネス本が積読してある。
洗濯は1週間に一度、掃除はゴミの日の前日。
彼女がいたときは、奮発してデパ地下のお惣菜もよく買ってたよね。
俺だったら体のことを考えて、手料理を作ってあげるけど。
彼女がよく家に来てたのに、生ごみが少ないのは、家庭的じゃなくて良くないよ。
ちょっと言い訳するとね、もちろん、初めて会ったときから北村のことは好きだったよ。
働き始めてまもなく、アパートに高校の友達が来てたよね?
その時、俺のことベタ褒めしてくれたじゃん。
カッコイイとか、シュッとしてるとか、優しいとか、頭がいいとか。
その時、俺たちもう両想いなんだって確信したんだ。
それでも、こうして5年間も手を出さなかったのはさ、やっぱり価値観や生活がどこまで合うか知ってからじゃないと、って思ってたからね。
今のところ何一つ問題はないよ。
あとは体の相性くらいかな?
でもそれは俺の努力次第でもあるから大丈夫!
今日はいつもより1時間も早くベッドに入ったね。
昨日の余韻を噛み締めてくれているなら嬉しいよ。
スマホのライトが消えたから、そろそろ寝たかな?
さて、そろそろ行くから。
断りなく合鍵を作ったのは申し訳ないけど、どうせ今から恋人同士になるんだから、構わないよね。
――おわり――
ともだちにシェアしよう!