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第16話
広いベッドの上でどう寝たらいいのか、よく分からなかった。
そもそもベッドで眠るのもずいぶん久しぶりだ。
端っこで眠ろうとしたところ、宗吾さんに抱きしめられる。
抱き枕の様なものだろうか。
よく分からないけれど、振りほどくのも悪い気がしてそのまま目を閉じる。
綺麗なシーツと快適な空調。そんな場所で長らく眠ったことが無く、うつらうつらとしただけで緊張してよく眠れなかった。
サキュバスというのは何をして生きていくべきなのだろうか。
セックスが食事として必要なのは知っている。
それ以外は何をして生きていけばいいのだろう。
お腹が膨れたせいで余計なことを考えてしまう。
セックスの事だけ考えていた方がいいのだろうか。
その方が淫魔として幸せなのだろうか。
セックスを強請る存在としてそれに集中するのが幸せってやつなのだろうか。
けれど、それよりなにより宗吾さんが何を考えているのか全然理解できず、不安だった。
◆
翌朝、寝不足の目をこすりながら起きる。
宗吾さんは「おはよう」と短く言った。
「人間の食事は食べられるか?」
静かに宗吾さんはそう言う。
「食べることはできます」
栄養になるかは効率が悪すぎてお話にならないけれど、人の体液以外も食べる事はできる。
味もそれなりに判別することもできる。
「じゃあ、食事にしようか」
宗吾さんはそう言って立ち上がった。
仕方がなく僕もついていく。
シンプルなキッチンとダイニングのある部屋に通される。
外観とは違って案外普通の家っぽいのかもしれないと思う。
「ここは一人暮らしなんですか?」
「ああ。他に誰か住んでると思ったのか?」
「いえ。……他に飼っている淫魔はいるのかと思って」
「いる訳がないだろ」
何故、呆れたように宗吾さんが言うのかよく分からなかった。
手慣れた感じで僕を買った姿は他に何か買っているのだろうなと思わせるのに充分だった。
けれど、という事は目の前に並ぶ人間用の朝食も宗吾さんが作ったという事なのだろうか。
あなたは誰なんですか?という質問をしてみていいのだろうか。
やくざではないと言っていた。
それ以外はよく知らないのだ。
「僕はずっとここにいていいですか?」
「当たり前だろう」
昨日も似たような話を聞いた気がする。
ほとんど間を置かず宗吾さんは答えた。
僕はここでずっと暮らすことが決まっているらしい。
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