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第18話
本を何故勧められたのかはよくわからなかった。
妓女が話題にするタイプの本は多分無かった。
と言っても僕自身ほとんど知識は無いので、それが正しいのかどうかも分からない。
盤上のゲームをしたり、政治経済の相談にのったりなにかそういう高級なことをする場合があるらしいと知っている位だ。
棚の隅っこに何故かあった、児童書をぼんやりと読みながら思う。
あの人は、僕にセックスをする以外何を求めているのだろう。
そもそも、セックスに何を求めているのかもよく分からない。
僕を彼は捨てないようだけれど、それが何故なのかもよくわからない。
◆
宗吾さんが帰ってきたのは日がとっぷりと暮れて随分たってからだった。
音が聞こえて玄関まで出迎えると少し驚いた様な顔をしていた。
それで、ああ、これじゃあ本当に犬みたいだと思う。
「……腹がすいてるのか?」
宗吾さんに言われる。
淫魔は毎日食事をしなくても平気だ。
丸々一週間何も食べなくても死ぬことは無い。
だから今も満腹ではないけれど、別に空腹でも無い。
それとも出迎えた犬に向かって餌の事を心配するのは普通の事なのか。
僕にはよく分からない。
「お腹はまだそれほどすいていません」
下腹部を撫でて言うと、ゴクリと唾を飲み込まれた。
まるで宗吾さんの方がお腹がすいているみたいだ。
宗吾さんは乱暴に靴を脱ぎ棄てて、おいでと僕に言いながら僕の手首を握って引く。
連れてこられたのは寝室だった。
僕はこの部屋と風呂場と、それから二人で食事をしたダイニングキッチン、あとは書斎以外の部屋に入ったことがない。
今日もほとんどの時間をここで横になって過ごした。
ベッドの淵に腰掛けるように言われる。
その隣に宗吾さんが座る。
肩が触れそうな距離だ。
「セックスが好きか嫌いか確かめようか」
相変わらず静かな声で宗吾さんが言った。
本当にそんな事を確認できるのだろうか。
「お腹いっぱいの状態で、セックスをして気持ちいいならそれはセックスが好きって事だろう?」
宗吾さんの言葉は極論に思えた。
だって、僕の体は多分普通の人間よりもずっと快楽を拾いやすい。
気持ちいいって事は好きって事なんだろうか。
前の主は反応しているから虐められるのが好きな変態なんだと言っていた。
変態である僕のためにわざわざそうやっていじめてやっているのだから感謝しろと言われていた。
どうなんだろうか。
空腹でどうにかなるより好きなのかもしれない。
自分でもよく分からない。
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