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第28話

それから二人で朝ごはんを食べた。 人間の食事の良し悪しは本当のところでは僕にはよくわからない。 そのまま食器を二人で洗って、お茶を二人分宗吾さんが入れた。 庭に面する縁側に二人で並んで腰をかける。 この家にハウスキーパーが入っているのかはよく分からない。 僕がそういう事をやるべきなのか、おずおずと話を切り出すと「掃除は明日一緒にしようか」と言われた。 人の生活感があまり感じられないこの家には、やはりあまり人が来ないらしい。 「家に一人でいるとき、何かしたいことはあるかい?」 宗吾さんに聞かれるが何も思い浮かばない。 したい事って何だろう。 「本を毎日読んでいるわけにもいかないだろ?」 沢山の文字を読むこと自体、今までなかった。 けれど、本能に目覚めてしまった淫魔は普通学校という場所に行かない。 多少の例外があるらしいことは知っているけれど、僕は少なくとも本をすらすらと読む習慣が無い。 教養が無いのだと伝えた方がいいのだろうか。 昨日も思った、妓女の様な教養をこの人は必要としているのだろうか。 「あの……」 何て言ったらいいのか分からなかった。 馬鹿でごめんなさい。だろうか、それとも何もできないんですだろうか。 「大丈夫」 宗吾さんが僕の髪の毛を優しく撫でる。 一旦ゆっくりと息を吐いて、それから何度かゆっくり吸って吐くを繰り返す。 「僕、あまりというかほとんどちゃんと勉強をしたことが無くて……」 そこで言葉をいったん区切る。 僕が今一番知りたいことはここからなのだ。 「僕に教養があった方がいいって、考えていますか?」 僕が言いたい事は伝わるだろうか。 教養が必要という事であれば必死に学ぼうと思う。 方法もよく分からないけれど、そういう事を好む人も多いと知っている。 なら、僕にも頑張ればできるのかもしれない。 少しだけ間があった。 宗吾さんはなんと返そうか、少々悩んでいる様に見えた。 「最終的には、那月がしたい方でいいと思う」 不思議な言葉が返ってきた。 最終的、何か途中があるみたいな言い方だった。 それに僕が知りたいのは、宗吾さんがどちらがいいのかだ。 さっきも聞かれたけれど僕がしたい事っていうのがよく分からない。 あまり何かを自由に決められた経験自体無い。 ここに来たのだって、僕の意思じゃない。 けれど、それを言ってしまうのはさすがに憚《はばか》られて俯く。 宗吾さんは「まずは今の生活に慣れて、それから少しずつやりたい事見つけていけばいい」と言った。 しばらく僕はここにいる前提って事だろうか。 いさせてくれるという事だろうか。 もう一人にならないという事なのだろうか。

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