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第30話
「那月の事をペットだと思ったことはない」
宗吾さんははっきりと言った。
服を買い与えて着飾らせて家に置いておく。
愛玩動物以外に何も思い浮かばなかった。
宗吾さんは少し悩む様に間をあけた後、困ったような笑顔を浮かべた。
「那月はまだ、それも知らないのかもしれないな」
一人納得してる言い方をする宗吾さんに首をかしげる。
何ですか? と聞く前に宗吾さんが言葉を繋げる。
「ペットだとも思っていないし、酷いことをしたいとも思っていない」
だから、安心して欲しい。
宗吾さんはそう言った。
それから、まずは生活に慣れてそれから色々と知って欲しい、と宗吾さんは付け加えた。
僕には、彼が何を言っているのか分からなかった。
何故彼がそう言ったのかも分からなかった。
◆
向かったショッピングモールで眼鏡を購入した。
ショッピングモールは沢山のお店が並んでいて、やはり服屋は人間の服ばかり売っている様に見えた。
「今日すぐ出来上がる方がいいかと思ったから」
と宗吾さんは笑う。
眼鏡が出来上がるまでの一時間は豪華そうなチョコレートのお店でホットチョコレートと小さなチョコ菓子を二人で食べた。
人間のご飯の味はそれほどよく分からないけれど、これは甘くて美味しい。
人間の体液も甘いから似ている気がした。
宗吾さんが、自分の分のチョコレートも僕にくれる。
彼は何で僕に優しくしてくれるんだろう。
僕が彼の所有物だからだろうか。
よく分からない。
きっかり一時間後眼鏡ショップに戻る。
クリアな視界で見る宗吾さんの容姿は、あまり人と会ったことのない僕でも分かる位整っている。
上質な服を着て、上質な生活をしている見目麗しい男が、僕の新しい眼鏡に喜んでいる様に見える。
見間違いなのかもしれない。
不思議な光景だ。
似合うと言われたフレームは焦点があって初めて、僕には少し可愛すぎるデザインなんじゃないか? と不安になる。
「よくお似合いですよ」
と店員さんにも言われる。
本当にそうならいいと少しだけ思う。
宗吾さんは僕の事をペットじゃないと言ったけれど、ブサかわなペットを可愛がる的に似合っていれば嬉しい。
今買ってもらった眼鏡をかけたまま「他に何軒か行きたい店があるから、付き合って」と宗吾さんが言った。
こういう人が多いお店はあまりきたことが無い。
綺麗に飾られたマネキンも、靴も、それから、それから。
思わずきょろきょろとみてしまう。
「何か欲しいものはあったか?」
宗吾さんに聞かれるけれどよく分からない。
宗吾さんは曖昧な笑みを浮かべてそれから「こっち」と僕の腕を引いた。
そこはおしゃれな雑貨店の様だった。
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