30 / 82

第30話

「那月の事をペットだと思ったことはない」 宗吾さんははっきりと言った。 服を買い与えて着飾らせて家に置いておく。 愛玩動物以外に何も思い浮かばなかった。 宗吾さんは少し悩む様に間をあけた後、困ったような笑顔を浮かべた。 「那月はまだ、それも知らないのかもしれないな」 一人納得してる言い方をする宗吾さんに首をかしげる。 何ですか? と聞く前に宗吾さんが言葉を繋げる。 「ペットだとも思っていないし、酷いことをしたいとも思っていない」 だから、安心して欲しい。 宗吾さんはそう言った。 それから、まずは生活に慣れてそれから色々と知って欲しい、と宗吾さんは付け加えた。 僕には、彼が何を言っているのか分からなかった。 何故彼がそう言ったのかも分からなかった。 ◆ 向かったショッピングモールで眼鏡を購入した。 ショッピングモールは沢山のお店が並んでいて、やはり服屋は人間の服ばかり売っている様に見えた。 「今日すぐ出来上がる方がいいかと思ったから」 と宗吾さんは笑う。 眼鏡が出来上がるまでの一時間は豪華そうなチョコレートのお店でホットチョコレートと小さなチョコ菓子を二人で食べた。 人間のご飯の味はそれほどよく分からないけれど、これは甘くて美味しい。 人間の体液も甘いから似ている気がした。 宗吾さんが、自分の分のチョコレートも僕にくれる。 彼は何で僕に優しくしてくれるんだろう。 僕が彼の所有物だからだろうか。 よく分からない。 きっかり一時間後眼鏡ショップに戻る。 クリアな視界で見る宗吾さんの容姿は、あまり人と会ったことのない僕でも分かる位整っている。 上質な服を着て、上質な生活をしている見目麗しい男が、僕の新しい眼鏡に喜んでいる様に見える。 見間違いなのかもしれない。 不思議な光景だ。 似合うと言われたフレームは焦点があって初めて、僕には少し可愛すぎるデザインなんじゃないか? と不安になる。 「よくお似合いですよ」 と店員さんにも言われる。 本当にそうならいいと少しだけ思う。 宗吾さんは僕の事をペットじゃないと言ったけれど、ブサかわなペットを可愛がる的に似合っていれば嬉しい。 今買ってもらった眼鏡をかけたまま「他に何軒か行きたい店があるから、付き合って」と宗吾さんが言った。 こういう人が多いお店はあまりきたことが無い。 綺麗に飾られたマネキンも、靴も、それから、それから。 思わずきょろきょろとみてしまう。 「何か欲しいものはあったか?」 宗吾さんに聞かれるけれどよく分からない。 宗吾さんは曖昧な笑みを浮かべてそれから「こっち」と僕の腕を引いた。 そこはおしゃれな雑貨店の様だった。

ともだちにシェアしよう!