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第43話

◆ 「よう、糞ボケ。」 ハウスキーパーさんは早めに帰ってきた宗吾さんにそう言った。 宗吾さんはその口ぶりに驚いた様子だった。 ハウスキーパーさんはその見た目の通り上品か優し気な話し方ばかりしていた。 止めた方がいいのか、怒った方がいいのか、それともこの人達の事に口を出すことが悪いことなのか、僕には分からない。 でも僕の所為な気がするので、僕が謝るのが正しいのかもしれない。 「何、突然」 宗吾さんはジロリとハウスキーパーさんをにらみつける。 だけど、言葉ほど険悪な雰囲気は感じない。 「俺さあ、なんも事情知らないで那月君の話し相手してたんだけど?」 腰に手を当てて、宗吾さんに言う姿はとてもかわいらしい。 「は?なんの話だよ」 宗吾さんの話し方が僕に対してのものと少し違う事に気が付く。 これが彼の素の話し方なんだろうか。そんな話と関係ないことが気になってしまう。 ハウスキーパーさんの横に並んで座っているのでとても居心地が悪い。 「大切な人と一緒に暮らしてるっていうから、協力してんだろ。 なんだよ、金で買ったって!」 ハウスキーパーさんが怒鳴る様に言う。 僕が勝手に言ってしまったことなのだ。 やっぱり今からでも誤った方がいい気がする。 宗吾さんがどんな顔をするのか不安で俯く。 「他に、確実に彼を手に入れる方法が無かっただけだ。 金の事はどうでもいいだろ」 宗吾さんは僕には何も言わずハウスキーパーさんに言い返す。 「俺は、手順をちゃんと踏めって言ってるんだよ、糞ボケ!!」 ハウスキーパーさんが言っている意味が分からない。 「……あ、あの。お二人は」 本当はどういったお知り合いなんですか? 最後の方はもごもごとしてしまったけれどそう伝えた、パートナーが友人同士だと言っていたけれどそういう距離感には見えなかった。 友達の友達というのには近い距離感。しかも種族が違うのに。 「非常に不本意な感じだけど、友達だ」 今は友達から糞ボケに降格してるけどな。 ハウスキーパーさんが言う。 宗吾さんも別に否定しない。 だからこその気軽さなのか、二人で話す時の宗吾さんが僕相手の時の様子とあまりにも違って、鳩尾のあたりがモヤモヤとする。 淫魔と人が友達になれることも、上手く頭の中で理解できない。 人と淫魔がそんな風にしているのを見たことが無い、店でも、前の主の元でもその前も。 宗吾さんは彼の友達を僕の話相手にしてくれたって事だろうか。 僕にお土産を沢山買ってきてくれるみたいに、僕に優しくしようと思って。 「もしかして、彼に酷い事とかはしてないよな」 ハウスキーパーさんが言う。 「は? 酷い事ってなんだよ」 宗吾さんが言い返す。 「ベッドでの嗜好がヤバいって聞いてるけど」 「人の性的な話に口突っ込むなよ」 「俺らにとっては食事の話だ、糞ボケ」 二人が言い合ってるのをただ茫然と見つめる。 二人が、何を問題に思っているのか僕にはよく分からない。 淫魔が売買される場合があるのは仕方がない事だ。 だけどハウスキーパーさんにとってはあり得ないことで、だから僕は言ってはいけないことを言ってしまって、だけど宗吾さんはその部分は何も気にしていない様だった。

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