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第77話

汚れていい恰好で来てねと指定されていた。 けれど、僕の持っている服はどれも真新しくて、宗吾さんに相談したけれど、大丈夫だよって言われただけだった。 悩んで、せめて動きやすい恰好にしようと服をえらんだ。 そこにいたのはハウスキーパーさんとそれから数人の淫魔だった。 どの人もとても見目麗しい。 僕とはやっぱり違うのかなと一瞬思ってしまった。 だけど、そんな事全く気にした風なひとは一人もいなくて、挨拶もそこそこに、土にまみれながらジャガイモを掘る。 同じようにドロドロになっていく綺麗なひとたちを見て、少し面白い様なおかしい様な、不思議な気持ちになった。 ドロドロになった園芸用の軍手と籠いっぱいに採れたジャガイモ。ジャガイモは美味しいものなのかはよく知らないけれど、沢山採れるとわくわくとしてしまう。 それは他のひとも同じみたいで、とても和気あいあいとしている。 以前いた場所で出会った淫魔とは、上手く会話をすることもできなかった。 あの人に飼われていた淫魔からも蔑む様にみられていた。 だけど、今は別にそんな事も無い。 宗吾さんは、食べる役目として畑の端っこに広げられたブルーシートに座ってこちらを眺めている。 「ジャガイモって美味しいんですか?」 イモをかごに入れながら近くにいたひとに聞く。 「うーん。俺は甘いものよりはこういうものの方が好き」 甘いものはなんていうか体液に比べて、偽物っぽい気がするからちょっと苦手なんだ。そう言われて、ひとそれぞれなんだなと思った。 僕は甘いものは比較的美味しいと感じられる。 当たり前だけど、その人によって全然違う。 それがとても嬉しかった。 だって、それは僕は僕なりの幸せを探してもいいという事に思えた。 僕は僕なりの好きなことを増やしていっていいのだと思えた。 汗が額から流れ落ちる。 袖口で拭くと、「顔に土ついてるよ」とハウスキーパーさんが笑みを浮かべた。 そう言ったハウスキーパーさんの顔にも泥が少しついていた。

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