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第78話

芋ほりは初めてしたけれど、楽しかった。 畑の隣にある家はハウスキーパーさんの別荘らしく、そこで簡単な料理をしてくれるらしい。 「いっぱい採れたね」 宗吾さんがニコニコと僕の持っているジャガイモの入った籠を見て言う。 「うわー。陰険なくせに、那月ちゃんに好かれようと必死なの糞笑える」 ハウスキーパーさんはなぜか宗吾さんに対して辛辣だ。 宗吾さんは別に陰険ではないと思うけれど、そうやって煽る。 淫魔は孤独の捉え方が人間とは違うらしい。 だから、長年の付き合いがうかがえる宗吾さんとハウスキーパーさんのやり取りを見ても何も思うところは無い筈だった。 なのに、僕は少し変だ。 思わず変な感じのするお腹のあたりを自分でさすってしまう。 それを見た、ハウスキーパーさんが、少し驚いた顔をした後、面白そうに笑った。 「ああ、那月ちゃんももう空腹にならない生き物になったんだ」 宗吾さんとの事は何も言ってなかった。 家に来てくれた時何かを話したことが無かった。 わざわざいう事でもないと思った。 それに愛されなくなった時が怖いから。 そもそも彼が家に来るときはいつも宗吾さんは仕事でおらず、二人きりだったのだ。 だから、当たり前の様にそう言われて驚いたのだ。 宗吾さんを見たら彼も驚いている様だった。 他のひとを見たらそのひと達も驚いているように見えた。 愛は形が無い。見えないものだ。 まるでそれが見える様な断定的な言い方に、僕は驚いて言葉を上手く返せなかった。 「淫魔が愛を貰えるのは珍しいから」 それに、正直精液を飲む方が楽だ。 ハウスキーパーさんはそう言った。 彼の様に見目麗しいひとならそうかもしれないと思った。 「愛を知った淫魔だけが本当の孤独という感情を知れるからね」 嫉妬するのを見るのも可愛いからいいけどね。 そう言いながらハウスキーパーさんが笑う。 嫉妬? これが嫉妬という感情なのだろうか。 ざわざわとする感覚のするお腹のあたりをもう一度撫でながら僕は考える。 飲食店に他の客が来ても嫉妬しないように淫魔は食事相手が他の人間と何をしていようがそこまで気にならないことが多いらしい。 愛を知ってしまったものだけがこの感情を知ることが出来るらしい。 人間と同じ感情を。

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