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第79話

「なんで、お前がそんなに嬉しそうなんだよ」 ハウスキーパーさんが舌打ちまじりで宗吾さんに言う。 宗吾さんを見ると、本当に緩んだ笑顔を浮かべていて驚いた。 彼があまりにも幸せそうで僕まで驚いてしまった。 「今度からは那月ちゃん一人で来なよ」 畑以外にも色々やってるからさ。 今度みんなで温泉でも行こうよ。 ハウスキーパーさんが僕に言う。 外との繋がりは必要だよ、と宗吾さんは言っていた。 何も持っていない僕が、何か掴むために世界を広げた方がいいと言ってくれている。 多分ハウスキーパーさん達もそれに協力してくれようとしている。 それが、分かって嬉しかった。 僕がどこへ向かえるのか、何ができるのかは今はまるで分からないけれど。 だけど、どこ向かうにせよ、支えてくれようとしている人たちが沢山いる。 それに気が付けるようになった自分がいる。 二人で歩んでいけるだろうか。 見つけた星を分け合う様に。 勝手に二人でと思ってしまったことを嫌がられないだろうか。 「那月は、那月が幸せだと思えることをすればいいよ」 僕が温泉に行ってもいいか尋ねようとしたと思ったのだろう。 宗吾が言ってくれたことは結果的に僕が思っていたことの答えになった。 思わず宗吾さんに抱き着いてしまう。 その位嬉しかった。 引っかかるかもしれないと思って尻尾の出ない服を着てきてよかった。 多分僕は今犬の様に尻尾を振り回しているかもしれない。 「はいはい。 勝手に行ってきますよー。精々お留守番しててくださいねー。」 つまらなさそうにハウスキーパーさんが言う。 今度はもう、あまり胸のあたりはざわざわしなかった。 「そもそも、なんで今日もついて来てるんだよ。しかもそのカメラなんだよ」 お前、写真撮る趣味なんて無かったよな。 宗吾さんに言う。 そう言えば宗吾さんは今日も作業中の写真を沢山撮っていた気がする。 それは僕にとってはどっちでもいいことだった。 今日なんで、宗吾さんが来たか。 一番の理由は、ハウスキーパーさんが何か僕の好きなものを紹介してって言われたからだ。 最初思い浮かんだのは、宗吾さんに貰った雪の結晶の本だった。 だけど、一人で考えて、それから今日一緒に来ることを二人で決めた。 宗吾さんを紹介させてくださいとは、彼にも言っていない。 「僕の彼氏いいでしょっていう自慢をさせてください」 そう一気に言い切る。 それから、精一杯笑ってみせた。 少し恥ずかしい。 「何、この子、面白い」 今日初めて会った、長い髪が綺麗なひとがふき出したのが見えた。 しばらく経ってから、淫魔は人間のことを一生餌だとしか思えない場合も多いのだと知った。 どちらの方が幸せかはひとそれぞれだろうと思う。

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