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第1話※ 碧斗

僕の叔父さんはしょうもない。 33歳になるのに、ぜんぜん現実的じゃない。 おじさんは、ギター講師をしている。しかも自分が住んでるアパートの一室で。 自分の家を教室にしてマンツーマンで教えるなんて、怪しすぎる。 その証拠に生徒の数は少ないから、生活が厳しくたまに僕の母さんにお金を借りにくる。 母さんは渋々お金を貸してやる。 おじさんが住んでいるアパートの一階にはカフェが入っていて、夜にはライブハウスになる。 だから、夜になるとピアスだらけな人やタトゥーだらけで怖そうな人たちがうろうろしている。 「他で教室借りた方が良いんじゃない?」と言ったら、これが一番金かからなくていいんだ。っておじさんは笑っていた。 仕事については、百歩譲って良いとして私生活もだらしない。タバコは1日に何本も吸うし、生徒も女の人が多い。 本当にギターを教えているのか怪しいもんだ。 考えながらおじさんの部屋へ向かうのに階段を登ると、ギターケースを持ったにこやかな顔のおばさんとすれ違った。 、、、。女たらしめ。 階段を曲がるとおじさんが、玄関から顔を出している。 「あおー。今日はどうだった?」 僕は碧斗。17歳。 このくたびれたおじさんの甥だ。 おじさんは僕をあおと呼ぶ。 母さんに金を貸してもらう代わりに僕にギターを教えてやる。と言って、小さい時からおじさんは頼んでもいないのに僕にギターを教えた。 母さんは笑いながら、「将来、あんたみたいになったら困るんだけど。」とおじさんの頭を小突いた。おじさんは笑いながらひでぇなと言った。 そうしていると、2人は姉弟なんだなーと実感した。 小さい頃は、うちに来て教えていたが最近は学校帰りにおじさんのアパートがあるから僕が通っている。 「あおの指、細いけど男らしくなってきたなー。」 おじさんが、無精髭を触りながら言った。 高校2年になったばかりのとき、別クラスの人にバンドに誘われた。 「碧斗くん?」 黒板を消していると、横から話かけられた。 顔を向けると、普段あまり話さないタイプの男子がいた。茶色がかった髪に若干パーマがかかっている。目つきも鋭い。 警戒していると、ニコッと笑って 「いやー。1発で分かったよー! 本当にキレイな顔してるなー。」 僕が呆気に取られ、見ていると 「俺、3組の奏です!よろしく! 碧斗くん、ギターできるんだって?今度ライブがあるんだけどギターが抜けちゃってさ、、、。一回だけでいいから、入ってくれないかな?頼む!」と一気に捲し立てられた。 学生生活にも飽きていたし、勢いに圧倒され、僕は頷いた。 その日の放課後、バンドの練習を見学した。 メンバーはドラムの原田くんとベースの岳くん。 原田くんはどうやら1年の時、僕と同じクラスだったらしい。らしい、というのは僕が覚えてないからだ。 「碧斗くん、俺たち結構話してたんだよ。 ほら。俺がさドラムやるんだーって話したら僕もギターやってる。って言ってたじゃん。 それ思い出して、奏に碧斗くんのこと話したんだよね。」 覚えてない?と人懐っこい顔で聞かれた。 「ぜんぜん記憶にないや。ごめん。」 原田くんはそっか。と少し残念そうだった。 ベースの岳くんは、身長が高くひょろながい。前髪で顔が見えないが、小さい声で「よろしく。」と言った。 次の日、練習に参加してギターを弾いた。ちがう楽器と合わせるのは初めてだったから緊張したが、曲が終わると奏がすごい勢いで振り向いてこう言った。 「碧斗くん、君採用!!」 「いやいや!!なんで上からなんだよ!! 入ってください。お願いします。って頼めよ!」 と原田くんが突っ込んだ。 岳くんが僕に近づいて聞いた。 「めちゃくちゃ上手いな。自分で練習してるのか??」 「ううん。おじさんがギター講師だから小さい頃から習ってるんだ。」 岳くんが何か言おうとした時に奏くんが言った。「よし!!碧斗くん!君も今日からの爆走サムライダーズのメンバーだ!!」 結果、一回ではなく僕は正式なメンバーになった。 「仕込んだ甲斐があったわー。よかったよ。あおがようやく高校生らしいことしてくれて。 高校上がっても友達いなそうだったから心配してたんだよ。」 おじさんがギターの譜面を見ながら言う。 「友達ならいたけど、おじさんには話してないだけだよ。」 おじさんは、タバコを咥えながら笑った。 「かわいくねぇなー。本当にそんなんで馴染めてんのかよ。 お前、幼稚園のときも1人隅っこでありの巣とかいじってたじゃん。暗いガキだなって思ったね。」 「、、、。いつの話だよ。」 「それにしても、爆走?サムライ?バンド名変えた方が良くねぇか?」 「、、、それは僕も思った。」 最近はギターを教えてもらう時間が、他愛のない話で終わる時もある。 インターホンが鳴る。 「お。もう時間か。次の生徒来たから今日はここまでな。」 おじさんが、伸びをしながら言った。 「母さんが、夜ご飯食べに来たら?って。」 僕が言うとおじさんは 「今日は遅くまでレッスンが入ってるから無理だなぁ。また行くわ」と言いながら僕の頭に手を乗せた。 帰り際に玄関を出ると次の生徒らしき人が待っていた。茶髪のロングヘアに眼鏡をかけて、ちょっと地味な女の人だった。 軽く会釈をされたので、僕も頭を下げた。 ギターは持っていなかった。 夜7時。きっとあの女の人はギターを習いに来てるんじゃない。 家まで帰る途中、僕はおじさんの指、部屋の匂いを思い出していた。 おじさんの好きな曲をたくさん聴いた。 おじさんに褒められたくてギターもたくさん練習した。 そして音楽もギターも大好きになった。 もっと教えてほしいから、バンドにも入った。 ダメなおじさんが、僕はずっとこれからも好きなんだ。

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