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第2話 ※清香

「清香は本当に華奢だなー。ちゃんと食ってるか?」 先生は私を抱きしめながら言った。 私は幸福感に満たされながら腕を回す。 華奢と言えば、さっきの男の子は細かった。 学生服を着ていなければ女の子だと思っていただろう。 肌白かったなー。 化粧水とか使ってんのかな。 「さっき玄関で、すっごい綺麗な男の子とすれちがったんだけど!!生徒なの?」 と部屋に入り興奮気味に聞くと 「あー。あれ俺の甥っ子。あおと。」 たしかに、言われてみれば顔が少し似ている。 先生の方が肩幅もあって、髭もあるからぜんぜん違うが切れ長の目や鼻は似ている。 同じ男なのに、大人と子供でこんなに違うんだな。キッチンでタバコを吸う先生を見て思った。 タバコを挟む指は骨ばっていて毛も濃い。 ごついわけではないが、筋肉がついていて肩幅もしっかりしている。 先生に出会ったのは、高校2年。 私はその頃、アメリカのガールズバンドにハマっていた。 化粧もマネして、よく学校で目をつけられていた。 たまたま地方紙にギター教室の広告が出ており、父に勧められたのだ。 掲載されていた住所に向かうと、普通のアパートだった。 えええ。ギター教室ってヤ●ハ音楽教室みたいなのじゃないの?お父さん連れてくるんだった、、、。 怪しかったら、逃げよう、、、。と思いながらインターホンを押した。 「はーい。」 低い声にドギマギした。 玄関が開き、髪の毛はボサボサで、無精髭を生やした男が出てきた。それが先生だった。 「あ!体験の子かぁ。どうぞどうぞー」 玄関の横はキッチンで、その奥に襖があり、そこでギターを教えているらしかった。 部屋に入ると、低いテーブルにはCDや楽譜が散乱していた。床にもピックが落ちていた。 「散らかってて、ごめんねー。あれ?名前なんだっけ?」 「小早 清花、、、です、、、」 「きよかちゃん。」 笑いながら低く掠れた声で呼んだ。 生まれて初めて、異性を意識した。男の人だって思った。 お父さんとも、クラスの男子とも、学校の先生ともぜんぜん違かった。 そこから、私は週1回教室に通い始めた。 少しでも先生と一緒にいたくて、レッスンの後はわざとダラダラと話をした。 ダイエットに励み、先生の好きな曲もたくさん聞いた。 クラスの男子に告白されたりもしたが、先生以外は心底どうでも良かった。 ある日、私は玉砕覚悟で想いを伝えようと教室に行った。 椅子に座った時、床に口紅が転がっているのを見た。 私がそれを見つめていると、先生が気付いたのかさっとそれを拾ってポケットに入れた。 とても冷たい顔で。 もし、想いを伝えてそんな顔を向けられたら私はどうなるだろう。 結局、私は何も伝えられずその日で教室に行くのを辞めた。 先生に再会したのは、私が24歳になってからだ。 友達にライブをするから見にきてくれと頼まれて行ったのが、ここのライブハウスだった。 先生の教室の下のライブハウス。 辞めてからはなるべく、この辺りは避けていたのに、、、、。 帰ろうか迷ったが、懐かしさと会えるかもという期待もありライブハウスに入った。 もし会ったらなんてどんな顔すれば良いんだろ?そもそも向こうは私の顔を覚えているのか? 友達のライブの後も少し残ってライブハウスの中を見回したが、先生は見つからなかった。 そんなもんだ、と帰ろうと外に出るとタバコの匂いがした。ふと喫煙所を見ると、そこにいた。 あぁ。やっぱりこの人欲しいな。 私は先生に近付いて言った。 「お久しぶりです。」 そうすると、先生は驚いた顔で一言。 「あ。ども。」 その後は当時付き合ってた人と別れ、先生に猛アタックしたのだ。 それがちょうど半年前だ。 ベッドの中で私は思い出し笑いをした。 先生が眠そうに「なになに?」と聞く。 「先生、あの時私だってすぐ分かった?また会ったとき。」 「分かったよー。俺ストーカーされてるのかって怖かったもん。」 私は軽く先生を叩いた。 いつまでもこうしていたいのに。 「明日早いからもう帰るね。」 私はなるべくここに泊まらないようにしている。重くならないように。嫌われないように。 「送ってくよ。」 先生と再会する前は、お金が貯まったら一人暮らしするつもりでいたが、実際はまだ実家暮らしだ。 「一人暮らししたら、先生んちの近くに住もうかな。」 先生と歩きながら恐る恐る言った。 「一緒に住んだらいいんじゃない?」 と先生が歩きながら前を向いて言った。 私は驚いて立ち止まった。 「、、、だって私がいる間ギター教室は?」 「まぁ。どうにかなるよ。俺もそろそろちゃんとしないとなーって。」 何が起きている?私がこの先使うべき運を今使い果たしているのではないだろうか? もし先生がちゃんとできなかったから、私が先生を食べさせてあげる。 私ははしゃぎながら先生の手を握った。

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