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第3話 ※碧斗

「碧斗、今日もおじさんとこか?」 バンド練習のときに、奏が言った。 僕はギターを、ケースにしまいながら帰り支度をしていた。 「そうなんだ。途中で抜けちゃってごめんね。」 「奏は完璧にできてるからな、、、。問題は俺たちだ、、、。」 と奏は原田くんは腕を組み、うーんと唸った。 ふと見ると、岳くんもベースをケースに入れて帰り支度をしていた。 「あれ?岳くんも帰るの?」 「期末テスト近いからな。点数悪かったら、親にベース取り上げられる。」 奏くんと原田くんは顔を見合わせてバツが悪そうに言った。 「俺たちも帰るか、、、。」 外に出ると雨が降っていた。 「テストかー。俺も今回悪い点取ったら母さんにバンド辞めろって言われるかもな。」 奏が言った。 「奏くん、よくそれで練習しようって言ったね。」原田くんが呆れながら言った。 「だってよ、次のライブ8月であと2か月ねぇしさ。女の子たちもいっぱい見にくるしさ。」 「バンドできなくなったら、ライブも女もねぇだろ。」 岳くんが冷静につっこんだ。 「でも、実際さ碧斗くん入って女の子のお客さん増えたよね?」 と原田くんが嬉しそうに言う。 そうかな?と僕は笑った。 話していると、おじさんのアパートに着いた。 「じゃあ、またあし、、、」 アパートに行こうとしたとき、カフェのテラス席でおじさんとこの間の女の人がいた。 僕は立ち止まって見ていた。 急に降り続く雨とじめじめした空気がうっとうしく思えた。 「どうした?」と岳くんが聞いた。 「おじさん、、、。」 僕はつぶやきながら、二人の席まで歩いて声を振り絞った。 「お、おじさん。」 少し声が上ずっていたかもしれない。 おじさんは座りながら振り向いて呑気に笑った。 「おー。あお。もうそんな時間か。」 僕は黙って頷いた。 おじさんがあっけらかんと言う。 「こちら、きよかちゃん。付き合ってんだ。」 女の顔を見た。女は驚いた顔をしておじさんを見たあと僕を見た。 「きよかです。碧斗くんだよね?こないだ玄関ですれ違った、、、。」 僕は軽く会釈をして、「どうも。」と短く言った。 「あおとー!」 遠くから、みんなの声が聞こえた。 「じゃあ俺たち帰るぞー!」 みんなの存在を忘れていた。 僕は笑顔で「うん!」と手を振った。 きよか、と別れて、おじさんの部屋に行った。「あれがサムライダーズのメンバーか。」 おじさんが笑いながら言う。 僕はおじさんと目を合わせず聞いた。 「おじさん、趣味変わった?」 「趣味?なんの?」 「女の人。いつももっとギャルっぽい人と付き合うじゃん。」 「そうか?まぁ清香もギャルみたいなもんだろ。」 照れているのか、頭を掻きながら言った。 その表情が余計に僕をイラつかせる。 カフェで2人を見たとき、声をかけるつもりはなかったんだ。気付けば声をかけていた。 「、、、。生徒に手出すなんてほんとに節操ないなぁ。」 本当は灰皿も床に投げたい。襖も蹴りたい。 そんな気持ちを抑えて余裕ぶって言った。 「あ。お前ね。俺はね生徒に手を出したことは一回も無いの。清香は元生徒! 俺生徒に手出すほど、がっついてねぇよ。」 10歳くらいの時、おじさんと派手な女の人が街中で歩いているのを見た。 僕は後日、お母さんの口紅を盗んでおじさんの見ていない隙に床に落としたことがある。 床にはいつも楽譜やCDが散らばっていたし、前にも口紅やらピアスが落ちているのを見かけたことがある。 結局、その女とおじさんがどうなったかは知らないがその後2人でいるのを見かけることは無くなった。 そんなことを考えていると、 「お前、女の子と付き合ったことないだろ??もっと笑顔じゃないとモテないぞ。」 おじさんは、ニヤニヤしながら僕の顔を覗きこんだ。 心底どうでもいい。おじさん以外、ぜんぶ。 「試験近いから、もう帰る。」 「なんだよ。折角来たのに。そしたら、ここで勉強していけよ。終わったら飯でも食おう。」 今すぐ出ていきたいのに。 おじさんと一緒にいたいから、頷いて部屋の奥に入る。 ライブに来る女の子も、学校も、テストも、バンドもギターもどうでもいいんだ。 おじさん以外はどうだって。清香のことも、どうでもいいはずなんだ。 こんなに想っても、おじさんの何かにはなれないのに。 僕は勉強しながら、ギターを弾くおじさんを盗み見た。 こんなことになっても僕はこの人を嫌いになれないし、一緒にいたいんだ。

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