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失恋さえできない3
ゲイバーなどがひしめく中にお目当てのミックスバーはあった。お店はミックスだけど、店の立地はちょっとまずいかもしれない。でも、もう来てしまったのだから、と思い店のドアを開ける。
ドアを開けると時間がまだ早いのか、お客さんは2人で呑みに来ている男女のカップルと1人で来ている女性の3人しかいない。カウンターの向こうにいるスタッフは4人。男性と女性と、女装男性っぽい人がいる以外は、普通のバーと変わらない。そのことにちょっとホッとする。
「いらっしゃいませ」
あまり多くの人に見られるとまずいので、カウンターの一番奥の人目につきにくい席に座る。
メニューを見るとアルコールメニューがすごく充実している。でも、見るとフードメニューも色々あるので、食事をしないで来た俺にはありがたかった。
「何にしますか?」
オーダーを聞いてきてくれたのは男性スタッフだった。
「えっとシーフードピラフとビール。えっと、モルツを」
「かしこまりました」
店は、場所が場所だけにもっと騒がしくて、ゲイも多いのかと思った。でも、1人できている女性のセクシャリティはわからないけれど、男女で来ているカップルはノンケだろう。実は、男女のカップルじゃなくて、女装している男性かな? とも一瞬思ったけれど、体の小ささからして普通の女性だろう。つまり、女装男性っぽいスタッフさんがいる以外は普通のバーと変わらない。全然構えなくていい店だ。
こういう店なら1人でふらりと入れていいな、と思う。実際、今の俺も決して浮いていないと思う。
しばらく呑んでいると、どんどんお客さんが入ってくる。男性2人連れ、女性の2人連れ。恐らくゲイの人、レズビアンの人だろう。ミックスバーというだけあって、本当に色んなセクシャリティの人が来るんだな、とボーっと眺める。
「今日はお仕事終わりですか?」
お店のスタッフさんに声をかけられた。時間は19時半。普通の会社勤めの人が仕事を終えて呑みに来る時間だ。
「でも、スーツじゃないし眼鏡かけてるからIT系? 格好いいっすね」
と言われる。
当然だけどスーツなんて着ていない。今日は黒いシャツにアイボリーのパンツだ。プラス変装用の伊達眼鏡。
店内が暗いせいでか、顔はそんなにわからないのだろうか。俺にはとてもありがたいことだ。
IT系か。普通に就職したことないからよくわからないけれど、IT系ってスーツじゃないのだろうか。ドラマの役で会社員役をするときはいつもスーツを着ているから、会社勤めってみんなスーツかと思っていた。
「まぁ、仕事は内緒で」
そう言うと、
「秘密が一番格好いいっす。でも、うち来るの初めてっすよね?」
「あぁ。はい。外から見かけたことはあるんだけど、初めてです」
「ありがとうございます」
「1人で来る人って少ないですか?」
「いや。今日は少ないけど、結構いますよ。出会い欲しい感じです?」
「出会いはいらないかな」
「ですよねー。なんか格好いいっすもん。彼氏か彼女かいそう」
彼氏か彼女か。今はどっちもいない。芸能界に入ってからも彼女がいたことはある。秘密だけど。でも、颯矢さんを好きになってからは彼女はいない。もちろん、彼氏もいない。
「いや、どっちもいないです」
「え? マジで? 別れたばかりとか? あ、男イケます? 俺、ゲイなんだけど、どうっすか?」
「いや、あの……」
「でも残念。お客さんに手は出せないんですよ。だから安心してください。だけど、女性だけじゃなくてゲイにもモテそうだな。眼鏡かけててイケメンってずるいっすよね」
スタッフさんは気さくに話しかけてくる。ゲイにもモテそうなのか。でも、俺はノンケの男に好かれたいんだけど。と考えて落ち込む。だって、ノンケの男が好きなのは女の人じゃないか。男を好きになることはない。つまり、可能性ゼロ。
「モテそうに見えます?」
「見えますよー。なんか芸能人にいそう」
そう言われてドキリとする。芸能人っぽく見えてるのか? さすがに俺が城崎柊真だとバレたらまずい。でも、いそう、っていうことは芸能人だとは思ってはいないのだろう。そう考えてホッとする。
「でも、うちの店って出会い目的でくる人は少ないから、1人でゆっくり呑みたいときはおすすめです」
出会い目的の人が少ないというのは安心できる。スタッフさんならいいけど、お客さんで声かけられるのは、さすがに身バレしそうだから困る。
「良かった。ゆっくり呑みたいんで」
「じゃあ、俺もあまり話さないようにしますね。でも、誰かと話したくなったら声かけてください。お客さんみたいなイケメンなら、いつでもOKです」
そう言って他のお客さんのお酒を作りに行った。
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