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スクープ6

 事務所へ行った翌日。テレビ収録が終わり、ドラマの撮影に入る前に少しだけ母さんの病院へ行った。先日来たときはあまり体調良くなさそうだったけど、今日はどうだろうか。少しでも良いといいのだけど。  気持ちが落ちたときは母さんの顔を見たくなる。これは昔からだ。母さんは前向きでクヨクヨしない人だ。だから、特に話すとかじゃなくても顔を見ると、なんとなく元気が出るというか、そんな気がする。  病室のドアを開けると、母さんは横になっていた。寝ているのかな? と思って近くへ行くと目は開いて天井を見ていた。  俺が来たのに気づくと、顔だけ俺の方に向けた。元気だと、起き上がるけれど、今日はその力がないらしい。それが俺を不安にさせる。 「どうしたの? なにかあった?」 「え?」 「元気ないし、不安そうな顔してる」  母さんは俺の顔を見るだけで俺の気分がわかる。隠し事できないな、と思う。  元気がないのは、週刊誌にスクープされたから。不安なのは母さんが元気なさそうだから。前者は少しは言える。でも、後者は言えない。 「お仕事でなにかあったの?」 「ちょっとね。すっぱ抜かれた。嘘だけど。それで昨日、社長に怒られた」 「何かで誤解を受けるようなことをしたのね?」 「うん。事実は全然違うんだけど」 「それでも、誤解されるようなことをしたあんたが悪いでしょう」 「うん......」 「これから気をつけなさい」 「うん」  体調良くなさそうなのに、なに母さんに話してるんだよ。ほんと情けないな。子供の頃から成長していないな。 「体調、悪い?」 「あまり良くないわね。しんどくて起きていられなくて」 「そっか。そういうときはゆっくりするときなんだよ」 「そうね」  そういう母さんの表情は明るくない。こういうときなんて言ったらいいんだろう。いい言葉が浮かばない。死に結びつくような言葉はダメだ。母さんは看護師をしていたから余計に。 「それでも、起きるくらいはしたいわね。ずっと寝ていると床ずれするし」 「床ずれするほど寝たきり?」 「そこまではいかないと思うけど」 「体勢変える?手伝うよ」 「ううん。このままでいいわ。ただ、背を少しあげたいわね。柊真の顔がよく見えないから」  母さんの言葉に泣きそうになる。絶対に泣かないけど。でも、最近の俺は泣いてばかりだ。 「じゃあ少し起こそうか」  そう言ってベッドの背を少しあげた。 「ありがとうね。横になってたら、あんたの顔よく見れないのよ」 「俺の顔なんて見飽きてるだろ」 「そんなことないわよ。イケメンで自慢の息子なんだから。そう言えば、昨日、看護師さんがテレビであんたのこと見たって言ってたわよ」 「うん、最近、次のドラマの宣伝してるから」 「そう。ドラマ見たいわね」 「観てよ。テレビカードいっぱい置いておくから。あ、今日買ってこようか?」 「ううん。今日は大丈夫よ。ドラマ始まるときはお願いね」 「わかった」  ドラマが始まるまでもつのだろうか。それが俺を不安にさせた。 「今日は仕事終わったの?」 「ううん。これから撮影。あ!そろそろ行かなきゃだ。ゆっくりいられなくてごめんね」 「いいのよ。行ってらっしゃい。気をつけて行くのよ」 「うん。わかった。行ってくる」 「行ってらっしゃい」  もう少しいたいけど、撮影に遅れるわけにはいかない。母さんに行ってきます、と言って病室を出た。母さんに会うのは、これが最後になるとは思わずに。

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