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第1話 魔法使いだった少年
小柄な金髪少年で、青い薔薇の刺繍が施された黒いマントを羽織っている。その下は黒のタートルネックにカーキ色のズボンという動きやすそうな姿だった。首元は布で作られた青薔薇とリボンで飾られているためか、活発さと上品さが衝突してちぐはぐな印象を受ける。膝下ブーツは泥で汚れ、元の色が見えない。
生意気そうな吊り目も、今は焦りの色が滲んでいる。
「放せ！ 絡みつくな。このっ……」
泥の地面を除きすべてがコケに覆われた樹海。太い幹に巻きつく蔓、人の背丈より大きな岩、川底の石。すべてが苔むし、眩い緑の世界を作り出している。一面緑なせいか泥の地面が酷く黒く見え、底なし沼の上を歩いているのではないか、突然足が沈むのではないのかという不安が常に付き纏う。
「やめろ！ 言うことを聞け。今はこんなことをしている場合では。私は――」
この深い樹海を歩くには、心の強さの他に肉体の強さも必要だ。
人が寄り付かない場所すなわち、魔物の住処である。そういったものから身を守る強さがなくては。
「い、痛い……っ」
この少年は植物使いだ。そう、このような樹海では無双できる存在である。何も恐れることはない。少年自身そう確信していたし、これまでも実際そうだった。
村の近辺に出没した魔物をさらっと退治し、天才だ英雄だともてはやされる充実した、ちょっとだけ退屈な日々。
――いま、この時までは。
「はあ……あ……。ン……」
少年を襲っているのは植物だった。魔物でも武器を持った人でもない。物心ついたころから手足のように、いや、顎でこき使っていた存在に。襲われ……辱めを受けている。
「う、動くな。そんなところ……を、くそ！」
樹海に溶け込む濃い緑の瞳が、少し離れた地面に転がっている棒切れに向けられる。
泥にまみれているそれはただの枝ではない。手のひらサイズの赤い宝石がはめ込まれた魔法の杖である。
「く……ぐぐっ」
歯を喰いしばり、何とかそれに手を伸ばす。ぎちぎちと自信を縛る蔓が悲鳴を上げる。
杖まであと少しのところで伸びてきた新しい蔓が、少年の身体を引っ張る。
「うわっ！」
どかんと背中が樹木にぶつかる。苔がクッションになったとはいえ、結構な威力だった。痛みに呻いた隙に、蔓が胴に巻きつき樹木に固定される。
「う……ぐう。放せ！」
暴れるも蔓は一向に千切れない。普段自分が使っているものだ。その強度は少年が一番よく理解している。自分程度の腕力で引き千切れるものではないと。
それでも少年は抵抗を続ける。
「こんなことが……！ あってたまるか」
そんな少年の努力も虚しく、両手は頭上で一纏めにされてしまった。
それを待っていたのか、はたまた先ほどぶつかった衝撃で起きたのか、夜行性の植物たちまで動き始める。
「うっ」
彼の目の前に集まったのは透明な粘液で覆われた蔓……触手たちである。木々が自らを守るときに使用するもので、虫や下位魔物くらいなら追い払える、人間でいう手足だ。
ぬちっ。
「――あっ」
その一本が少年の肌に触れる。ひんやりしていて、冷たい。触手が纏う粘液は虫よけにもなり、夏になるとよく売れる。人体には無害だ。その触手に続きぬちぬちと、何本もの樹木の手足が少年の身体を撫でてくる。熱が、身体の内側に溜まっていく。
「くすぐった……あっ……おい！ やめ」
植物が、いや樹海全体が自分を嘲笑っている気がする。
プライドの高さがそれを許さず、怒鳴ってやろうと口を開きかけたが、触手の先端が狙ったように胸の突起を撫で上げた。
ビクンと、身体が跳ねる。
「ンあっ」
声を発する寸前だったため、ひと際大きい声を上げさせられてしまう。
『カタカタカタ』
『ケタケタケタ』
大きな木からぶら下がったウツボカズラが一斉に笑う。
カァっと顔が赤くなった。それで触手の動きが止まるわけでもなく、子どもをなだめるように首筋や顎を愛撫される。
少年の衣服はぐっしょりと湿っていた。
粘液に濡れて肌に貼りつくせいで、服の上からでも尖っているのが分かる。
先端で乳首を転がされるくすぐったい刺激に、少年はたまらず身体をくねった。
「んっ……ん……、そこは……」
少年の甘い声に気を良くしたのか、触手たちはそこを丹念に攻め始めた。
「はあ……はあ……」
触れるように優しく撫でたかと思うと、二本の触手で摘まむように挟み込んでくる。
きゅっ。
「んん！ ……やあ……やめろっ。植物の分際で、この私に……！」
髪を振り乱して叫ぶ少年の声も魔法の杖を手放した今、植物たちには届かない。ぐいっと服をまくり上げられた。
「……っ」
森の冷たい空気に、火照った素肌がさらけ出される。
何をされるんだと、少年の顔が強張る。
粘液を纏った触手たちは二つの班に分かれる。一つは素肌を撫で、直に乳首を弄び始める。
「はっ冷たい……。やめ……んっ……はうっ」
左右をくりくりといじめられ、そのたびに身体が跳ねてしまう。
触手の先端の割れ目が口のようにくぱぁと開いたかと思うと、少年の濡れた乳首をやさしく挟み込んだ
「うっ！」
そのままちゅうちゅうと吸われる。母乳ではない。少年の魔力が。
魔力とは、例えばこの少年なら、植物たちを操るときに使う力の源である。魔法使いにしかない臓器で血液のように毎日作られ、全身をめぐっているエネルギー。
魔力は便利だが血液と同じで、少なくなればなるほど命にかかわる。
「や！ そんなとこ吸う……あん」
左の乳首も同じように吸いつかれる。
植物使いの魔力は、植物たちにとっては「ちょっといいおやつ」である。欠かせないものではないが、あると嬉しい嗜好品のようなもの。しかも滅多に手に入らないとなれば、がっついてしまうのも仕方がなかった。
ごくごくと飲まれていく。
「は……はあ……」
唇が震える。
まとめられた指先が冷たくなっていくのを感じる。
二つに分かれたもう一つは、少年のズボンの中に潜り込んだ。
「んや……！ 入るな。気持ち、悪い……」
足の付け根、太もも、尻と、ぬるぬると巻きつかれていく。すでに蜜を零し反り上がっているソレも、例外ではない。
「ひううっ。や、め……！」
敏感な先端の窪みがぐいっと押し込まれ、否応なしに声が上がる。
――ここからも魔力を吸われてしまう！
危機感を覚えた少年が庇うようにすり合わせた太ももを、泥を突き破ってきた太い根っこが無理矢理左右に開かせる。
「そ、そんなことをするな！」
言うことを聞かない植物たち。濃い緑の瞳に、じわあと涙が浮かぶ。しかし泣くことなど自尊心が許さない。
ぐっと歯を喰いしばる。
そんな少年を嘲笑うかのように、触手がソレを口に含むように包み込む。
「……はぅっ、あ……師匠」
思わず、魔法を教えてくれた師を求めてしまう。
助けてほしい。
脳内で再生されるのは焼かれた村。襲い来る魔物の群れ。その魔物を引きつれた何者かの影。
「あ……や、そんな……」
ソレを銜えた触手の中が怪しく蠢く。つるりとした表面とは違い、触手の内部はブツブツしており、現実に引き戻される。
「う！ 動く……な、あっ」
包み込まれているせいで、ブツブツがソレを満遍なく擦ってしまう。初めての刺激に、嬌声をこらえることなど出来なかった。
「あッ、ひぃっ……やだぁ！ うごいちゃ……んっアッ！ はぁ、あっ」
ぬちゅぬちゅと、卑猥な音が響く。
「あん！ あんっ、んっ……ソコ。あ、あっ……」
トロトロと蜜が溢れ出す。濡れて滑りが良くなったせいか、触手の動きが速まる。
「ひっ――熱い……あっ、だ、だめッ……あ、つい。熱いよ」
もう自分でも何を言っているのか分からなかった。ちゅううっと蜜ごと魔力を吸いあげられ、あまりの気持ち良さともどかしさに、自分で腰を振ってしまう。
そのせいでブツブツに擦れ、またもや淫らに鳴いてしまう。
「ああっ！ そんな。だめ、なのに……ッ。腰が、止まらなっ。あんっんん。ふっ――んっんっ」
自ら腰を振っているなんて、信じたくない。
「はあ……っ。たすけ……て」
両足が震える。もう自分の力で立っているのは不可能だ。縛り付けられていなければ、地面にへたり込んでいただろう。この先、自由になったからといって樹海から抜け出せる力など残ってはいない。
少年の魔力を感知したのか、樹海の魔物が集まってくる。
襲い掛かってこずに遠目でうろついているのは、植物たちが少年を手放すのを待っているのだろう。別にハイエナせずとも力づくで奪い取ることは可能だが、樹海で植物たちの怒りを買ってまで手に入れるメリットはないと判断したのだ。
「ん、はう……ああ……もう……」
観られている。
魔物という観客の前で喘がされる。そんな見世物みたいな扱いを受けているのに、何もできないなんて。
ぬうっと、特に太い触手が目の前に来る。口の中――舌からも魔力を奪おうというのか。
（させない……っ）
これ以上好き勝手されてたまるか。
せめてもの抵抗に、唇をぎゅっと閉ざす。触手は構うことなくぬるぬると唇を舐め回すように擦ってくる。
「っ」
顔を横に向けるが、職種は執拗に追ってくる。
その時――
「んあっ」
簡単に口を開いてしまった。
触手が尻の割れ目をなぞったのだ。穴のシワを数えるようにやさしく突かれ、我慢できなかった。
ぬるんと触手が咥内に侵入する。太い。口を大きく開けられる。
「んっんん……。んぁ……」
パチパチパチパチ。
ウツボたちが葉っぱ同士を叩き、よくやったと言いたげに拍手のような音を出してくる。触手を応援しているのだ。
――馬鹿に、しやがっ……。
しかしもう声を出すことも出来ない。触手が尻の穴周辺に粘液をこすりつけている。やがてナカに入ってくるだろう。その時、自分は正気を保っていられるだろうか。
目の端から、ついに涙が零れ落ちる。触手はそれすらも美味しく舐めた。
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