どれくらい眠ったのか、外の光が入らず、時計がないラブホテルでは朝が来たかどうかもわからない。 　スマホを取り出す間もなくバスルームに移動したので、ソファに置いた覚えのあるバッグを取りに行こうともぞりと身体を動かした。 　隼人は眠っているのだが、体ががっしりとしているために腕も重く、きつく抱きしめられているのと同じ状態だ。 「どこ行くの」 　起こさないようにゆっくりと静かに動いたのに、再び腕の中に閉じ込められた。 「あっ、起こしてごめんなさい。時間を知りたくて」 「時間……俺のアラームが鳴ってないからまだ夜中だと思うけど」 　隼人が身体を起こし、下着一枚身につけないままベッドを下りる。脱ぎ捨てていた自分の上着のポケットからスマホを取り出すと、午前４時半過ぎだと教えてくれた。 （はぁ～。俺本当に芳野隼人に抱かれたんだ……あのたくましい身体に、あの大きい……） 　ボッ、と顔が熱くなった。 　興奮していない状態でも、隼人の割れた腹の下に下がっているものはとても立派で猛々しい。 「ふふ。やーらしい。どこ見てんの」 　くすっと笑い、スマホをテーブルに置くと、隼人は身体を堂々と見せつけるようにベッドに戻ってくる。 　ギリシャの彫刻のような美しさに、梶山の目は釘付けになった。だから隼人が置いたスマホの横に、バッグから取り出していないはずの梶山のスマホがあることにはまったく気づかなかった。 「ね、もう一度、していい？」 　ベッドの上に上がってくると、隼人は梶山の身体を跨ぎ、四つん這いの姿勢で見下ろして聞いてくる。 　チロリと舌を出して唇を舐める仕草にドキッとした。さすが俳優だ。自分をセクシーに見せる方法を存分に知っている。こんなイケメンに、それも推しに色っぽい表情で迫られて、首を縦に振らない人間がいるはずがない。 　梶山が目を閉じてコクリと頷くと、柔らかさを確かめるように唇を食まれ、数度吸われて唇が濡れると、肉厚な舌を差し込まれた。 　ただ、昨夜の劣情をぶつけてくるような激しさはなく、濃厚だがしっとりと粘膜を慣らされていくような、優しさを感じるようなキスだった。 　演技だろうが、愛されていると勘違いしそうになる甘いキスだ。 （俺が枯れオジでよかったね。若い子なら期待してしまうよ？） 　梶山は期待しない。今まで誰も自分を愛してくれなかった。いつも自分は脇役。誰かの恋を見守るばかりで、たまにマッチングした相手とワンナイトをするだけだった。 「ね、目を開けて俺が触るところ、見てて？　俺、気持ち良くできてる？　昨日は無理させてごめんね」 　昨日は猛獣のようだったのに、大型犬に変身したみたいだ。ちゅ、ちゅ、と首筋や胸元の薄肌を舐めるように吸ってくる。 　梶山はふふふ、と微笑み、隼人のつむじに口付けをしてやった。 「とても気持ちいいよ。昨日も激しかったけど、とても良かった。あんなに感じたのは初めてだった」 　……あんなに求められたのも。 　だから演技でもいい。ワンナイトでもいい。 　奇跡が起こって出会えた推しに、一生分抱いてもらったのだから。 「ほんと？　やったぁ」 　イケメン俳優が歯を見せ、あどけない笑顔を見せる。 　これまで教えてきた生徒たちの笑顔と重なった。 　田舎くさい若者の変装をして現れ、猛獣のように梶山を抱き、大型犬のように甘え、子供のように笑う。 　いったいどれが本当の顔なのだろう。 （いや、彼はカメレオン俳優の芳野隼人だ） 　どれもが演技だ。梶山が隼人の本当の顔を知ることは、絶対にない。これは一夜限りの夢なのだから。 「たくさん感じてね。ここはもう、すっかり俺の形になってるから、すぐにでも入りそうだけど」 「は、ぁあん！」 　隼人のサイズと違い過ぎて恥ずかしいソコを舐りながら、後孔に指を挿れてくる。キャンディーでも頬張るみたいに口の中で弄ばれるが、確実に悦いところを知られてしまった。孔の中もそうだ。長い指を腹側に曲げられれば、背が弓なりにしなった。 　そして、本当に彼の形になっているらしい淫路は、少しほぐしただけでたやすく隼人の巨大な杭を受け入れ、歓びに震えて熱杭を締め付けた。 「本当に、最高だよ、せんせっ……！」 　そう言えばせんせ、とは「先生」だろうか。昨夜ホテルに入るまでに、いつの間にか自分の職業を漏らしてしまっていたのだろうか。 　隼人は芸能人だ。ゲイバーで出会った男と関係を持ち、それをネタに揺すられては困るから、梶山の個人情報をうまく聞き出して、対応できるようにしたのかもしれない。 （そんな心配は不要だよ。俺はずっと君を推し続けるから……） 「せんせ、せんせ、好きっ……！」 　ぎゅっと抱きしめられて、腹筋で熱芯を扱かれながら、規則的な抽挿が繰り返された。 「ぁ、あっ、……ッ……ぅ……いっ！　いくっ！　～～～～ッああぁぁぁ！」 　梶山は全身で隼人を受け止め、胸も腹も感謝と幸福でいっぱいにして、その後は心地良い疲労で再び眠りついたのだった。