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第5話

 次に目を覚ますと、隼人の姿はなかった。 「やっぱりそうだよな」  テーブルの上に「仕事なので先に出ます。支払いは済ませてあります」とメモが残されていたが、また会いましょうとも、もちろん連絡先の記載もなかった。  ワンナイトとわかっていながら心の隅で期待していた自分がおかしくて、鼻で笑ってしまう。  梶山はメモを小さくちぎると、情交の跡が染み込んだティッシュが山盛りのゴミ箱に、それを雪が降るようにハラハラと捨てた。 「……あれ? そう言えば俺、スマホ出してたっけ?」  次にテーブルの上のスマホを手に取る。  バッグから出した記憶はない。もしかしたら隼人は梶山のスマホを操作して、個人情報を知り得たのかもしれない。やはり職業などを漏らした記憶もないのだし。 「でも早いうちから"先生"って言ってたような……ま、いっか。相手は有名芸能人。俺がなにかをしなけりゃ向こうが使うことはないだろう」  安易に考えてしまうのは隼人との一夜が悦すぎたし、演技でもたっぷりと愛してくれたからだ。  あんなに素晴らしい夜を体験できる人間などそうはいない。 (うん。これからもテレビで応援するぞ~~)  帰宅すると午前十時過ぎ。今日の出社は十四時だからまだ時間はある。梶山は軽い朝食を取りながら録画していたドラマを見た。もちろん芳野隼人が主演の、刑事ものだ。 (やっぱりかっこいいいなあ)  あの身体に抱かれたのだと、また情交を反芻していると「ピンポーン」とインターフォンが鳴り、続けて三度呼び出し音が続いた。 (誰だ?)  梶山のマンションのインターフォンが鳴ることはほぼないのに、こんなふうにけたたましく鳴るなんて、と不思議に思いつつ、腰を上げる。 「……はい」  インターフォンの画面を操作し、モニターを表示させて返事をした。 「せんせ、開けてください」 「えっ」  モニターに映るのは、田舎風若者に変装した隼人。 (どうして? どうして? 家に? あ、そうか、個人情報を抜き取られたから!)  それって犯罪だぞ、とよぎりつつも、隼人が単身で尋ねて来たことにパニックになった梶山は思わず開錠ボタンを押してしまい、隼人はエントランスを抜け、梶山の部屋の玄関前まで来てしまった。  見事な変装をしているとはいえ有名芸能人を玄関前で待たせるわけにも警察に通報するわけにもいかない。  おそるおそる玄関ドアを開け、隼人を部屋に迎え入れる。 「あ、あのぅ、どうしてここに?」 「うん、ほらこれ」  にこっと笑い、隼人は上着のポケットから取り出したスマホの画面を梶山に見せた。GPSが繋がっていることを示されて、梶山は目を見開く。 「せんせ、よく眠っていたから起こすのが忍びなくて、今朝はホテルに残していったけど、これでせんせがどこにいてもわかるから、スケジュールが開いたらいつでも会いに来るからね」 「いや、待ってくれ。個人情報も抜き取ったうえ、GPSまで!? いったいなにが目的なんだ」  芳野隼人の素顔はこんなに恐ろしい人物だったのかと血の気が引く。芸能人を誘ったと逆に金を揺すられるのだろうか。それとも都合のいい性欲処理器にされてしまうのか。  だが、隼人は思いも寄らない返事をした。

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