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第6話

「え~? 個人情報なんて抜き取ってないよ。GPSを繋げただけ。当たり前でしょ。俺たち恋人同士になったんだから、もう二度とせんせを見失いたくないんだ」 「ほぇ!? 恋人同士!?」  いつそんなことに? そして最近の若い恋人同士にGPSは常識なのか? いや、そんなわけないだろう。それに「二度と」って言い方、昨日初めて会った俺たちに使うには不適当だぞ? 俺の担当は数学だが、国語の講義をしようか?  梶山の頭の中は「はてな」でいっぱいで爆発しそうになるが、隼人は言葉を重ねてくる。 「昨日俺の告白に答えてくれたから、俺たち付き合ってるんだよね?」  昨日……告白……? 「あ、え? バレンタインパーティーの、あのチョコカクテルの告白、本気だったのか?」 「本気以外で告白しないし、セックスするわけないでしょ」 「だって、会ったばかりの、しかもオジさん相手に、本気?? 嘘だ。信じられないし、俺と芳野隼人が付き合うなんて、そんな非現実的なことがあっていいわけ」  ない! と言おうとしたところに、ズイ、とスマホの画面を寄せられた。 『あぁん! そこ、そこ気持ちいいっ。もっと突いてぇ……あぁぁあ! やっぱりダメえ、すぐイっちゃうから、もう出るから、あぁぁ~~~~!』 『パンッ、パンッ、パンッ! グチュ、ドチュ、ジュポンッ!』  昨夜の梶山のあられもない姿が映し出され、嬌声と激しい行為の音声が流される。 「ひっ……」 「せんせは本気じゃなかったの? でもさ、俺をさんざん誘惑してこんなことになっちゃって……せんせ、大人なんだから責任取って恋人になってくれますよね?」  またニコッと笑われる。天使のような笑顔だが、芳野隼人という男は本当にヤバい人間のようだ。 「……ん?」  ヤバくても推しは推し。キラキラのまぶしい笑顔に目をすがめていると、ある一人の笑顔がぼんやりと脳裏に浮かんだ。 (確かこんな笑顔をして、俺に悪戯をしたりじゃれついたりしてくる子がいたな……あれ? あれれ? あの子は、はやと……隼人……?)  霞がかっていた笑顔が徐々にはっきりとして、その子が、大学生時代にアルバイトで個別指導をしていた小学生の「有吉隼人君」だったことを思い出した。 「……えっ? まさか、まさか、あの隼人君!?」 「! せんせ! 俺のこと、ちゃんと思い出してくれた!?」  わん! とでも言うように飛びついてくる。十歳の隼人君も、いつも子犬のように梶山にくっついてきていた。 「やったあ! もう奇跡、奇跡だよ! 俺、五年生が終わる前に海外に引っ越したでしょ? それで、二十歳で芸能界に入ってから日本に帰ってきたんだけど、八年間どんなに探してもせんせの消息が掴めなかったんだよ。ずっとずっと会いたかったよ」 「ど、どうして俺なんかを」 「どうしてもこうしても、せんせを好きだったからに決まってるでしょ! 思春期に入っても思い出すのはせんせの優しい笑顔だけで、何度せんせで発散したことか……でもそんな自分を認められなくて、自分はゲイなのかと知りたくて昨日あのバーに行ったんだ。そしたら、いるじゃん。せんせが! すぐにわかったよ。せんせがゲイだったなんて、俺たちは結ばれる運命だったんだとどんなに嬉しかったか!」  好き好き大好き、せんせ! と言いながら、隼人は梶山の唇を奪い、口の端から唾液が漏れるほど濃厚なキスをしてくる。  それは、チョコレートよりもずっとずっと甘いキスだった。  梶山は隼人の熱に溶かされ、夢の中にいるように蕩けてしまう。  ────隼人は昨夜、何件かゲイバーを検索したが、バレンタインパーティーをやっているということであのゲイバーを選んだ。海外に引っ越す日の数日後がバレンタインデーで、梶山先生に手紙と母親から持たされたお菓子、そして自分のお小遣いで買ったバレンタインチョコを渡すつもりだったのだが、お別れが悲しすぎて会いに行くことができず、結局渡せなかったことが、頭に残っていたのかもしれない。  あの頃は「好き」の種類がわからず、当時流行っていた友チョコのつもりでチョコレートを買ったのだが、今はもう「好き」が「愛してる」であることをしっかりと自覚している。  バレンタインは昨日だったが改めてチョコレートを買い、二人きりのバレンタインパーティーをしよう。そしてきちんと「愛してる。結婚を前提に付き合ってください」と告白をして、パーティーのあとは、昨夜だけでは伝えきれなかった十八年分の愛欲をぶつけようと、隼人は腕の中で溶けたチョコレートみたいに蕩けている梶山をしっかりと抱きしめるのだった。 HappyEnd

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