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49 やっぱり確認

 唇がしっかりと重なった後、史也は俺の唇をぺろんと舐めた。 「ふぁ……っ!」  快感がぞくぞくっと背中から首を駆け抜けて、俺が嫌だって思っていた女みたいな声が出る。 「陸、声我慢しなくていいよ」  ちゅ、くちゅ、と俺の唇を食んだり舐めたりしていた史也が、口を重ねたまま器用に喋った。  されるがままになって、は……ん……っと甘い吐息を吐きながら、蕩けてしまう。史也から与えられる熱に夢中になって、背中からずりずりと滑り落ちていった。  だけど、史也の足が俺の足の間にいつの間にか差し込まれていて、緩やかな滑落はそこで止まる。  腰をグイッと押しつけられれば、感じるのは下腹部に当たる史也の固くなりつつあるモノ。……えっと。え、本当?  知らず閉じていた瞼を開くと、目を閉じて頬を赤らめている史也の顔面が視界一杯に広がった。史也の表情から、史也が俺とのキスに夢中になっているのが見て取れる。――ヤバい、可愛いんだけど。 「史……っあ、ふ……っ」  喋ろうとしたら、口の中に史也の舌がぬるりと入り込んできた。史也のしっとりとした舌が、優しく俺の舌を絡め取る。史也が薄目なのか普通に開けたのかは分からないけど目を開けたので、バチッと目が合った。  ――雄の目だし。  真剣な目で俺を見つめてくるから、目を逸らすなんてとてもじゃないけどできない。だって、史也が俺だけを見て、俺を味わって俺を欲している。こんなもん、奇跡じゃなくて何なんだよ。  史也の胸板に当てていただけの手を、史也の首に当てて撫でる。固い首筋にある血管から、ドクドクという早い脈動が伝わってきた。 「陸……好き」  柔らかな声が、俺に愛を囁く。顔を斜めにして、もっと深く俺の中に入って来ようとする。 「ふ……っあ、待って、史……っ」  肘で押して、抵抗を示した。 「……嫌?」  史也が顔を離す。悲しそうな表情を、欲情した顔に浮かべていた。違う、そんな顔をさせたい訳じゃないんだ。 「そうじゃなくて……あの……」  言っていいのかな。淫乱とか思われないかな。  恥ずかしくて目を伏せると、史也が俺の顎を指でくいっと押し上げた。 「うん。ちゃんと聞くよ」  瞳は不安そうに揺れているのに、それでも俺を優先してくれる史也。史也はいつだってそうだ。俺のことを優先してくれて、俺が嫌だと思ってないか心配して。  ――本当、おかんなんだからなあ。  心がほわんと暖かくなって、俺は史也の口にチュッと軽いキスをした。史也が目をぱちくりとさせるのが、やっぱり可愛い。史也って可愛いんだよって言ったら、どういう反応するのかな。 「……ここじゃ寒いよ。部屋に行こうよ」 「あ……っ」  そう。ここは玄関のすぐ横。隙間風もあるこのアパートの中では、風呂場の次に寒い場所だ。あはは、と史也が照れくさそうに微笑む。  分かってくれたみたいだ。だったらもっと大胆になってもいいかな。  はっきりと口に出すのは恥ずかしい。だけど、俺だってずっと史也が好きだったんだ。史也が欲しいって思って何が悪い。 「その、ふ、布団……とか、敷いてみたり、とか」 「……!」  うう、恥ずかしい。でも、史也だって分かってると思う。俺のだって興奮して固くなってるのは。だから、この意味は分かってくれたんじゃないか。  コイツヤバいくらいエロい奴って思われたらどうしよう。そんな考えもよぎったけど、よく考えたらエロくて何が悪い。史也のことが好きで史也を欲して、悪いことがあるか。  だから俺は、勇気を振り絞って口に出して伝えた。 「俺、史也に抱かれたい!」 「……ふぁ……っり、陸……っ」 「ぶっ」  返事の前に、史也が俺の口を唇で塞ぐ。さっきまでのちょっと遠慮がちな優しいキスじゃなくて、抑えていたものを解放したような、そんな荒々しいキスだった。 「陸、陸……っ! 大切にするから……!」 「ん……っ」  そこからの史也の行動は、早かった。涼真から俺を守ろうとしてくれた時みたいにヒョイと俺を抱えると、部屋に入って後ろ手で襖をピシャンと閉じる。 「布団敷きます!」 「あ、うん。俺、ちゃぶ台片付けようかな……」 「お願いします!」  声がでかい。  焦ったように俺をその場に下ろした史也。俺は恥ずかしさでこれ絶対顔から湯気出てるよ、と思いながら、ちゃぶ台を部屋の隅に移動した。  振り返ると、史也がグワッと布団一式を一度に抱えて、畳の上に置いたところだった。……鬼気迫るものがあるんだけど。  俺がぽかんと見ている間に、史也は布団を一式ど真ん中に敷き、押入れの中にある小物入れをガサゴソと漁り、四角い袋をふたつ取り出してきた。  それを持ったまま俺の前に立つと、唇を口の中にしまったかっわいい顔で俺を見下ろす。 「え……と?」  どうしたのかな、と見上げると、史也はそのふたつを俺に見せてくれた。……ローションとコンドームだった。 「陸……っ」 「う、うん?」 「そういうことで……いいんだよね?」  確認がきた。俺が嫌がることはしない、史也らしい行動だ。  可愛いな。好きだな。そんな想いが溢れて、思わず笑みが溢れた。 「うん、そういうこと」 「お、俺が挿れる方でいいの?」 「うん。……て、史也、経験は……」  そうだよ。よく考えたら、俺は涼真に散々抱かれた経験があるのを史也も知ってるけど、俺は史也の恋愛遍歴はひとつも知らない。  そもそも男とこういうことになったことってあるのか。それすらも疑問だった。  史也が照れくさそうに微笑む。 「な、何度かあるよ。挿れる方で。まあ大分前だけど……」 「男と?」 「うん、まあ……」  歯切れが悪いなあ。軽く睨み上げると、史也が慌て始めた。 「今度! 今度ちゃんと話すから! だからさ、今はその……っ」 「うおっ」  史也が、俺の股の間に足を入れて抱き上げる。慌てて史也の首に抱きつくと、史也は俺を布団の上に仰向けに寝転ばせた。両手を俺の顔の横について、足は俺を跨ぐ。 「……陸のことだけ考えて陸を抱きたいから、陸も俺のことだけを考えて抱かれて欲しい」 「……っ」  なんていう殺し文句だよ。ちょっと潤んだ目でそんなことを言われたら、返事なんかひとつしかないじゃないか。 「……うん、史也。大好き……っ」 「――陸っ!」  待てを解除された犬のように、史也が俺に飛びついてきた。

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