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第26話 今年も、それからも

 雄史と身体を重ねるまで、志織はまったくネコの経験がなかった。しかしいざ抱かれてみると、あまりの良さにハマってしまった。  特に彼は体力も腕力もあるので、少しばかりねだっても、身体を預けても、受けて止めてもらえる。 「うわっ、これめちゃくちゃ眺めがいい」 「そんなに凝視、んっ……するなよ」 「繋がっていくところがよく見えます」 「実況しなくていい」  先ほどのおねだりを聞いて、前戯のあと雄史の身体を再びまたいだ。彼の指ですっかり解された場所に、昂ぶり張り詰めた熱を埋める。  体重をかけるだけで、どんどんと飲み込んで、腹の奥に圧迫感が広がった。さらに腰を下ろすと、ローションの粘る音とともに、全部身体の中に収まる。 「あっ、馬鹿、いきなり……うご、くな」 「だってもう、俺、……我慢が」 「気持ち良くしてやるから、大人しくしてろ」  下から突き上げてくる、雄史の腰を押さえ込んで、大きく息を吐いてから志織は腰を動かす。なるべく締めつけながら、ゆっくりとねぶるみたいに。  そうすると彼は小さく声を漏らし、ぎゅっとシーツを握る。 「んっ、やばい。気持ちいいし、視覚の暴力が半端ない」 「はあ、ん……これ、主導権を握ってるみたいで、なかなかいい」 「志織さん、好きに動いて、……いいですよ」 「ん、じゃあ、遠慮なく」  言われるがままに志織は腰を揺らめかせる。自分のいいところに硬く張り詰めたものを押しつけて、何度もそこを刺激した。あまりの気持ち良さに、薄く開いた口からは、ひっきりなしに声が漏れる。  いつもは雄史のいいように攻められることが、ほとんどだ。それも求められている感じがしていい。けれど自分の欲求に従って、刺激を求める感覚もたまらない。  ギシギシとベッドが軋むほど腰を揺らしてしまう。 「ぁっ、んっ……イクっ」 「志織さん、めちゃくちゃ、えっちで可愛い」 「ぁ、ぁっ、雄史っ」 「もっと刺激して欲しいんですか?」  伸びてきた手にきゅっと手を握られて、引き寄せられる。身体が傾いで志織が前へ倒れると、雄史は激しく腰を使ってきた。  ガンガンと突き上げられる感覚に、意識が飛びそうになる。 「んっ、んぅっ……あぁっ、だ、駄目だっ、ほんとにもう、イク……っ」 「ぁっ、やばっ、俺も出そう」  ゾクゾクとした感覚に、後ろの口がきつく締まる。眉を寄せて快感を堪える、雄史の顔が色っぽく、それにまた昂ぶらされた。  無意識に身体を追い詰めて、高みに登っていく。芯から身体が震えるような感覚。  ビクンビクンと身体が跳ねると、いままで感じたことのない快感を覚える。あまりの良さに、志織は頭の中を真っ白にさせられた。 「志織さん、後ろだけでイっちゃった?」 「あぁっ、んっ……うご、くな。あっ……」 「ごめんなさい。ここまだキュンキュン締まってって、気持ち良さ過ぎる」 「んぁっ」  イったばかりで腕に力が入らず、志織は雄史の胸元に額を預ける。握り合った手が小さく震えて、まだ先ほどの快感が抜けない。  それなのに彼は硬く熱いもので中を擦り上げてくる。身体は震えそうなほど、だけれど気持ち良さに身動きできなかった。 「こっち向いて、志織さん」 「ん」 「んふふ、トロトロで可愛い」  志織が顔を持ち上げると、少しだけ身体を起こした雄史に、やんわりと口づけられる。口の中をまさぐられるだけで、快感が増す気がした。舌を甘噛みされれば、それだけで身体が悦ぶ。  そのあとは欲を吐き出すことなく、何度も啼かされた。 「はあ、どうしよう俺、止まんない。このままだと朝になりそう」  うつ伏せる志織の腰を掴み、汗を滴らせる雄史は、まだまったく萎えていない。予想済みではあったけれど、本当に一晩とは思っていなかった。  それでも無我夢中に求められると、志織はなんでも許したくなる。 「んんっ……ぁ」 「志織さん、辛くない?」 「ん、気持ちいい」 「俺も、すごく気持ちいいです」  今度は気遣うように優しく、ぴったりと身体を触れ合わせてする。それはいつもと違ってまたいい。じわじわと込み上がる快感は、クセになりそうだった。 「もうずっと、志織さんと繋がっていたい、かも」 「ぁあっ、……ゆう、し」 「うん、俺もイキそう。志織さん、一緒に」  ぎゅっときつくシーツを握った手、その上に彼の手が重なる。それとともに、ゴムの中で欲があふれたのを感じて、志織は何度目かわからない絶頂を迎えた。 「うわぁ、三時間」 「最長記録だな」  二人でベッドの上で転がって、思わず笑ってしまった。今日はそれほど激しくはなかったけれど、よくもそんな時間、もつれ合えたものだと思う。  これでは新年、起きるのは昼だろう。それでも志織の中には、充足感があった。 「雄史、腹は減ってない?」 「ええっと、大変運動をしたので、……減りました」 「じゃあ、ちょっと早いけど食うか」 「あ、俺、持ってきます。志織さんはちょっと休んでて」  タオルで汗を拭っていた雄史が、ぱっと立ち上がる。運動したというわりに、機敏な動き。下着とデニムを履くと、そのまま台所へ駆けていった。  その後ろ姿を見送ってから、志織も身体を起こす。 「にゃー」 「ん、にゃむ。起きたのか? ……というかお前、いつも寝たふりをしてないか?」 「なぁー、なぁー」  雄史の姿が消えるのと同時に、寝床からやって来たにゃむが、ベッドの上に飛び乗る。ゴロゴロと喉を鳴らす彼女は、二人が睦み合っているあいだ、起きてくることがほとんどない。  その真意は計り知れないけれど、もしかしたら気を使っているのかもしれない。 「志織さーん。お重に入ったのとこれ、ですか?」 「ああ、うん」 「ビールも飲んでいいです?」 「いいよ」  作りおいたものをテーブルに広げ、重箱を開くと、雄史の顔が輝く。  ウキウキした様子で向かい側に座った彼は、志織の顔を見つめてくる。その視線に頷いて見せれば、いただきますと両手を合わせた。 「すごい! こんなにしっかりしたおせち、感動です!」 「ゆっくり食べろ。まだあるから」 「んんー! おいしいっ! 口の中が、幸せです。やっぱり志織さんのご飯は、なに食べてもおいしいなぁ」  次々と雄史の腹に収まっていく料理に、量を増やして良かったと、志織は息をつく。重箱に入りきらない分もあったが、三が日とは言わず、今日明日でなくなりそうな勢いだった。 「ほら、にゃむも新年だからな」 「にゃぁ」  削り鰹節をたっぷり載せたウェットフード、それに彼女は飛びつく。うにゃうにゃと鳴く声が、うまいうまいと言っているように聞こえる。この一人と一匹は、案外似ているかもしれないと思えた。 「食べてすぐ寝たら、脂肪が蓄積されるな」 「え、もう一回?」 「馬鹿、それはまた明日で、いいだろ。そんなにがっつかなくたって、今年は始まったばかりなんだから」 「はいっ! でも今年とは言わずに来年も、できたらその先もよろしくお願いします」 「そうだな。末永くよろしく頼むよ」  前のめりな雄史に、志織は顔をほころばせて頷く。  キラキラと光る笑顔と、たっぷりの幸せがあふれるこの場所は、新しい年も――おいしい恋が舞い降りる。 おいしいご飯ではじまるニューイヤー/end

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