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22:ニコイチ

 2人で配信しようものなら俺の配信にまでマキのファンがやってきた。嫌なノリだ。俺は昔から面白半分でゲイいじりしてくるやつが嫌いだ。MADとかでネタにされてるのを見るのも腹が立つ。すっかり消費コンテンツとなった俺の「マキが好き」という芸風を引きだそうと、マキまであれこれ言ってくるようになった。 「突っ込むなっつってんだろーが、botか!」 「いや、いける! 多分いける!」  いつも通り敵陣ど真ん中に突っ込もうとするマキを止めるが、調子に乗ってるマキは全く言う事を聞かない。人気が出て自分のプレイスタイルが好まれると知ると、いつも以上に1人で突っ走るようになった。マスター昇格して少しは上手くなったかと思えばすぐこれだ。馬鹿だ、本当に馬鹿。俺の見立て通りあっさりダウンした。 「うああ、ごめん!」  マキが謝るところまで何度繰り返したか分からないいつものやり取りだ。 「許して! 俺の顔に免じて!」 「……は?」  でもこれは今までと違う。  何言ってんだこいつ。過去1の「は?」が出てしまった。顔がどうした。俺がマキの顔を好きなことは本人にもリスナーにも知れているが、それとゲームは関係ねぇ。自分の失敗を自身の顔面でカバーしようとする自意識過剰さにムカつき、ダウンしてるマキに向かって狙撃して確キルを入れた。 「なんでええええ!?」  叫ぶマキにコメント欄は草が生えている。良かったな、ネタになったぞ。俺は本気で殺そうかと思ってやったけど。このノリが面倒くさくなって、俺は少しずつ2人配信を断るようになっていった。    俺が配信に参加しなくなり、やるゲームが変わってもマキの人気は衰えなかった。マキがソロでやってる20年前のRPGは今でも人気が高く、マキではなくゲーム目当てで視聴するファンが増えたのだ。絶望的な世界観での生死をかけたラブロマンスに、マキはラブシーンで恥ずかしがりながらもしっかりときめき、泣けるシーンではきっちり泣いた。初めてプレイするマキの感情豊かな反応がウケていた。くるくる変わるイケメンの表情を見ようとする女ファンもまた増え、俺も結局マキの顔目当てで見てしまう。 「えっ、雷200回避け!? まじ!? 無理くない!?」  たまたま生で配信を見ていたら、キャラの最強武器を手に入れようとコメントで攻略を募り、今作最難関と言われるプレイに絶望していた。  雷平原というフィールドで数秒に一度落ちてくる雷をタイミング良くボタンを押して避けるだけなんだが、それを200回連続で行わなければならない。俺も昔やったから辛さが分かる。ただただ単純に面倒くさい。それに集中力も続かない。画面はただの地味な作業配信と化し、ときたまに「あー!しんど!」等愚痴を挟みながら黙々とマキは雷を避け続けた。 「あれ!? 今何回!?」  140回を超えたところで数が分からなくなっていた。間違えたらまた最初からだ。どうせそうだろうと最初から数えていたからコメントする。 「え!? ぜっとさん!?」  しまった。配信アカウントの方でコメントしてしまった。 「ぜっとさん居るの!? ちょ、これ終わったら一緒に……アーッ!!」  ミスった。最初からだ。ははは、ざまあみろ。チャットアプリの方に「一緒にやろ!」とマキから来ていたが、無視した。    別に俺と一緒にやらなくたってマキの人気は勢いづいていた。わざわざ俺とセットで見たいというファンに媚びる必要はない。それなのに何故かマキは執拗に俺を誘い、一緒にゲームしようと言ってきた。仕事が忙しいと言えばそれ以上求めてくることはないが、流石に断り過ぎてわざとじゃないかと疑われてるかもしれない。面倒くせぇ。マキもマキのファンも。俺が嫌気をさしていると、ヤカモレさんが一度東京に戻ってきた。  明日にはすぐに手伝いに帰ると言うが、せっかくだから飲みに行こうと俺とマキを誘う。まだ三人でマスター昇格の打ち上げをしていない。マキに会いたくなかったが仕事も忙しくないし、予定のない土曜の夜は断れなくて、誘われるまま了承してしまった。

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