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32:好きの条件
「ゴムがもう無い」
3回やった後、zh@が言った。女じゃないんだから生でなんの問題があるんだと思ったけど、終わりだと示されるように弱々しく体を押される。やっぱ男同士でも生はマナー違反なんだろう。仕方なく身体を離し、zh@が行為の最中に取り出したゴムの箱を手に取る。空だ。元々は10個入りと書いてある。7回分の先人が居たのだと知る。ゴミ箱に投げ入れた。
「……しゃぶるか?」
「んー。いいや」
まだ萎えない俺のものを見てzh@が聞いてきたけど、断った。そんなとろけた顔で情事の匂いが染み付いたベッドでしゃぶられたら即4回戦だ。付着してる液体を適当に拭いてパンツを履いた。多分そのうち萎える。キッチンに向かって冷蔵庫から水を出して、ベッドに沈み込んでいるzh@にも渡そうとしたら、その短い間でzh@は既に眠ってしまっていた。
疲れきった顔で寝息を立ててるから起こさなかった。寝顔は知らない男みたいだ。頬を染めて俺を見つめて泣いて縋って「気持ちいい」って何度も言ってたのが嘘みたいだ。俺もめちゃくちゃ気持ち良かった。眠ってるzh@の薄いほっぺたを撫でる。ちょっとヒゲが生えてる。あんなに女みたいに感じていくのに、zh@は毎朝ひげを剃るんだ。変なの。変だと思いながらしょりしょり撫で続けてても結局萎えなかったから、風呂に入って一発抜いた。
翌朝、zh@は先に起きていた。放置されていた食べたものや飲んだものの残骸がゴミ袋にまとめられ、本人は部屋から消えていた。トイレに行くと浴室からシャワーを浴びる水音が聞こえる。昨日、寝ているzh@の体も濡れてるところは一応拭いたけど、相当汗かいていた。そりゃ気持ち悪いよな、と思いながらキッチンに行った。何か食い物がないか探す。無い。コーヒーとインスタントの味噌汁くらいしかない。どっちも飲み物じゃん。仕方なく服を着た。朝飯を買いに行こうと玄関に向かい、ドアを開けた瞬間だった。
ガタガタとすごい音がして、バンッと勢いよく洗面所のドアが開かれた。思わず玄関ドアから手を離して振り返ると、びしょ濡れのzh@と目が合う。
「えっ、何、どした?」
俺を見て何か言おうとして、そのまま口を閉じる。
「え~、何? 俺今から朝飯買い行こうとしてんだけど」
「朝飯……」
「ぜっとさんの分も買ってくるよ。コンビニでいい?」
zh@の家に行く途中で最寄りのコンビニは見つけていた。それ以外に店知らないし、着替えのパンツと歯ブラシも欲しい。靴を履いたまま返事を待っていると、zh@はその場でしゃがみこんでしまった。洗面所の扉で隠れて姿が見えなくなったから、慌てて靴脱いで廊下に戻った。
「え、ちょっと、風邪引くよ」
「お前が、」
扉の向こうのzh@は腰にタオルを巻いただけの格好で水滴を落としていた。
「お前が、帰るのかと」
膝を抱えてしゃがみ込んでそんなことを言う。
「……なにそれ」
俺が帰ると思って引き留めに来たの? シャワー浴びてたのに? 全裸で?
たまらなくなって俺もzh@の前にしゃがんだ。
「俺、勝手に帰ったりしないよ」
「…………」
「立ってよ」
「腰と尻がいてぇ」
「あっ、ゴメンナサイ」
思わず謝った。でも俺のせいだけじゃなくない? zh@だって何回もいってノリノリだったくせに。zh@の肩につけたキスマークを見つけると、昨日のことを思い出してキスしたくなった。でもまだ歯磨いてねぇや。我慢する。何でもないときにキスしたくなる。あー、これ、好きだな。
「何買ってくる?」
「お前と同じのでいい」
ため息をついてzh@は立ち上がり、洗面所に戻っていった。俺も立って、体を拭く物音を聞きながらしばらくそこで考えた。
zh@の気持ちが痛い程伝わる。俺もそれに応えたいって思うし、zh@のことは可愛いと思うし、セックスは気持ち良かった。俺の中じゃ十分好きの条件を満たしている。付き合いたいって思う。でも昨日、俺がやってる最中にノリで「好きだ」っつったら睨まれた。その場のテンションでそういうこと言うやつが一番嫌いだって言われた。昨日の今日でもう一回言っても相手にしてもらえないだろう。何でだよ。先に俺のこと好きになったのはそっちのくせに。
「あーあ」
先にセックスしちまったから、どうしたもんかなあ。もう一回靴はいて、外に出た。
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