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第17話
「背中が足跡だらけです。どこか痛むところはっ?」
颯の目の前で身長を合わせるために屈んだ諒大は、颯の具合を確かめるように顔を覗き込んでくる。その顔があまりにもかっこよくて、つい見とれてしまう。
諒大はどこからどう見てもかっこいい。横顔も、真っ正面から見つめてくる顔も、遠くから見ていたってかっこいいとわかる。
「颯さん、怖かったですよね……遅くなって申し訳ありませんでした。俺はいつもこうだ。本当に間の悪い男で、自分で自分を叱りつけてやりたい」
諒大がこの世の終わりかのような顔をする。
こうして助けに来てくれたのに、大袈裟に謝ってめちゃくちゃ落ち込んでいる諒大の様子がおかしくて、颯は思わず「ふふっ」と声を出して笑った。
「全然遅くないです。だって僕は無事だし、痛いところなんてひとつもありません。大袈裟だなぁ、諒大さんは」
颯は、そのように笑顔で言ったのに、なぜか諒大の目からひと粒の涙がこぼれる。
(えっ! なんで泣くの……?)
颯が何か言葉を間違えたのだろうか。本当は背中がめっちゃ痛いのに、痛くないなんて言ったから可哀想なオメガだと同情された? それとも涙が出るくらい颯の姿がみすぼらしかった?
「よく見てください。鼻にティッシュなんか詰めちゃって、おかしいでしょ? なんか、僕、諒大さんには転んだり、鼻血だしたり、いつもかっこ悪いとこばっかり見られてますね……」
諒大に笑ってほしくて自虐ネタを言うと、諒大はサッと涙を拭って笑顔をみせる。
「そうですか……そうですよね……。こうして颯さんは、俺の目の前にいて笑ってくれるんだから、その事実に感謝しないといけませんよね」
諒大の笑顔を見て、颯はホッとする。
よかった。笑ってくれた。涙にびっくりしたが、なんとか元気になってくれたみたいだ。鼻にティッシュも役に立つことがあるらしい。
「颯さん。医務室に行ってください。課のほうには俺から事情を伝えておきます」
「だっ、大丈夫ですっ」
「ダメだ。あなたの大丈夫はあてにならない。医務室が嫌なら俺の部屋に来ますか? 俺が手当てします」
(それって、諒大さんの前で貧相な身体を見せるってことっ?)
「む、無理ですっ! それはちょっと……」
「じゃあ医務室に。佐江、付き添い頼めるか? 俺は衣緒くんをなんとかする」
「うん。諒大、任せて」
佐江は「七瀬さん、歩けますか?」と颯に手を貸そうとする。
「諒大さん、衣緒くんは……」
「わかってます。大丈夫。俺は同じ間違いは二度としたくないと思っています」
諒大の言葉の意味が少しわからない。諒大は以前、同じような事例を対応したことがあるのだろうか。
「また連絡しますね、颯さん」
諒大は衣緒を連れて、スタッフ専用の扉の向こう側へと消えていった。
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