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第22話

『そうだったんですね……颯さんらしいな』 「だから、助けられてよかった。なんか、関係ないのに子どものころの僕まで助けられた気持ちになりました」 『颯さんは俺と違ってかっこいいですね』 「そんなことないです! かっこいいのは諒大さんですっ」 (あ! やば!)  諒大が颯のことをかっこいいなどと言うから思わず口が滑って、本音がもれてしまった。 『……嬉しい。初めてだ……颯さんにかっこいいって言われたの……』  諒大はめちゃくちゃ感動している様子だ。諒大ならかっこいいなんて言われ慣れているはずなのに、どうしてそんなに喜んでいるのだろう。 『かっこいいなんて言われたら、男は期待しちゃいますよ?』 「期待……ですか?」 『俺のこと、好きなのかなって』 「わぁっ! 違いますっ!」  慌てて否定してから、また言葉を間違えたと颯は落ち込む。もっとオブラートに包んだり、うまいこと誤魔化したりしなきゃいけなかったのに、コミュ障だから咄嗟の機転が効かない。 (そういうことは僕じゃなくて佐江さんに言えばいいのに!)  これだから人と話すのは嫌だ。口を開くといつも失言ばかり。 『はっきり言うなぁ。俺、相当嫌われてたんだ……』 「あのっ……ごめんなさい……」 『実は俺、颯さんの家の前にいるんですが、今から颯さんに会いに行ってもいいですか?』 「えっ! なんで……」  諒大のマンションと颯のアパートは車で三十分くらいの距離がある。こんな遅い時間にわざわざ会いに来てくれたのだろうか。 『なんてね。嘘です。びっくりしました?』 「嘘ですかっ? もう……」 『はい。さっきのがちょっと悔しかったから、仕返しです。じゃあ俺、帰りますね。おやすみなさい』  ピロンと、一方的に通話が切れた。 (今、帰りますって……諒大さん……)  まさかとは思う。でも、もしかしたらと思って腰ほどの高さのアパートの窓を開ける。 (白のベンツ……)  颯の目の前を通り過ぎていったのは、奇しくも諒大の愛車にそっくりな車だった。  この辺りは普通の住宅街で、諒大の車みたいに高級な車が走っているところをあまり見かけない。 「諒大さん……?」  颯が諒大を好きじゃないと言ったから、わざわざ来てくれていたのに、寄らずに帰ったのではないか。  でも、それは当然だ。  自分で言っておいてなんだと思うが、あんなことを言われたら傷つくに決まっている。 (これで、嫌われたかな……)  これは颯の望んだ結果だ。  どうせ振られるなら、諒大を好きにならないと決めて、諒大を突っぱねた。それで諒大が来なくなるなら喜ばしいことだ。  これで運命の番から解放されるし、諒大と恋愛することもなくなる。諒大はこのまま佐江を選んで幸せになることだろう。  よかったと思うのに、これが自分が望んだことなのに、颯の胸がズキンと痛む。 (あれ、おかしいな……)  なぜか涙が滲んで目の前がぼんやり霞む。颯の思考では、これでいいと納得しているはずなのに、涙があふれてくる。  思いどおりになったはずなのに、どうして泣けてくるのだろう。 「諒大さん……」  自分で諒大を追い払ったくせに、いざ避けられたら悲しむなんてどうかしている。でも、胸が張り裂けるみたいに痛い。 「諒大さん、行っちゃやだ……」  やっぱり嫌いになるなんて無理だった。  どんなに避けようとしても、心は諒大を求めている。離れたくても諒大は追いかけてくるし、こうして触れ合うたびにどんどん惹かれていく。

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