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どっちかにして

 タイランには存在するはずのない器官が、腹の奥で収縮する気配がする。そんなことあるわけないのに、ドウメキに触れられるだけで、体は馬鹿になっていく。  ぬちぬちと粘着質な音がする。快感から逃れようと浮かぶ腰を、ドウメキの腰で押さえつけられる。そり返る熱源がタイランの性器と擦れ合うたびに、ドウメキの唾液で濡れた胸元を反らすようにして声を上げた。 「は、ぁあ、あっあっ」 「すまない、……っ、加減が、できぬ……っ」 「ぁ、あば、っ、か……っばか、ばかも、の……っ」 「は……、今からこれで、どうする。入れたら気をやるんじゃないか……」 「ひぃ、ぃゃめ、っ……っでそ、ぁ、あっ」  ふわふわする。いろいろな場所が、えらいことになっているに違いない。かたく立ち上がる胸の粒を口に含まれるだけでも死にそうなのに、羞恥を叫ぶ前に、口から情けない声が上がるのだ。  わかるのは、楽しそうなドウメキの声だけだ。タイランばかりが前後不覚で、置いてけぼりにされているようで嫌だった。 「でそうか……?」 「で、ぅ……っぁ、あ、あ、っ」 「泣くな、何も怖くない……」  瞼に唇を感じて、排泄感にもにたそれが性器の中に溜まっていく。互いの先走りで濡れたドウメキの指先が、膨らんだタイランの裏筋を指圧した。その瞬間、火傷するかと思うほどの熱が、タイランの性器を駆け上がった。 「ぃあ、あ、ああっ……‼︎」 「は……」  粘着質な音が響いて、だらしのない射精をする。赤く腫れた先端を覆うように溢れた精液に勢いはなく、ドロリとしたそれがドウメキの手と、タイランの尻の間へと吸い込まれていく。  信じられないほどの開放感は、しばらくタイランの思考を支配していた。カヒュ、と下手くそな呼吸を繰り返し、何度も肺を膨らませる。全身の血が沸騰したかのように体が痺れて、余韻に引きずられるように腰が跳ねた。   「ひ、……ぅ、……っ……ん、んく、っ……」 「こんなに汗をかいて……、ほら、上手に息をしろ。そうだ、ゆっくりでいい」 「は、ぅ……ど、……、め、…き、……」  ドウメキの香りに釣られるように、タイランの鼻先は胸元へと吸い寄せられる。汗の滲んだ額を押し付けるようにして擦り寄れば、上気した頬を労るように撫でられる。  内股に擦り付けられる太い性器が、まだ終わりではないことを示してくる。大きな手のひらが、タイランの尻たぶを覆うように包むと、横向きに抱き合うような体勢へと落ち着いた。  額に柔らかな唇が降ってくる。汗の滲んだ額に口付けされるのが嫌で、俯くようにして拒んだ。 「逃げるな」 「ンぃ、……っ」  タイランの細い脚は、ドウメキによって開かれた。体を引き寄せるように、男らしく鍛えられた太い腰へと足を回される。気がつけば頭の下にはドウメキの腕が差し込まれ、少しでも離れようものなら、長い手足で絡め、捕えられてしまうような体勢だ。  指の太い手のひらが、再びタイランの性器を握りしめる。残滓を搾り取るかのように手を動かされ、つい手のひらに腰を押し付けてしまった。 「も、ぃい……、もぅ、ぃいっ……」 「タイラン」 「ふぅ、ぅ……ぁ、に……?」  涙で視界がぼやける。口端からこぼれた唾液を舐め取られ、黒髪を避けるように頭を撫でられる。こんなに、甘やかされるのが辛いとは思わなかった。胸が締め付けられ、息ができない。唇を受け取り、舐られ、喰まれるこの行為が、こんなに己にとっての毒だとは思わなかった。 「ひ、んく……ら、ぇだ……っ、ぉ、俺、ば、……っ、ばかに、なる……っ」 「集中しろタイラン、腕を首の後ろへ回せ。できるだろう」  頭を撫でないでくれ、頼むから甘やかさないでくれ。  ドウメキから向けられる苦しいほどの思いが、指先を通してタイランを泣かせにくる。弟がいる、成人した男でもあるのに、ドウメキのせいでタイランは弱い子になってしまう。 「ゃだ、ぃゃだ……き、気持ち、ぃの……も、ぃ、ゃだあ……っ……」 「なら、早く終わりにしてやるから、協力しろ」 「ぁ、あっま、待ってぉねが、ぁ、あっ……‼︎」  頭の下に回されたドウメキの腕が、タイランを抱き込んで逃さない。ぬかるんだ尻の間へと、ドウメキの太い指先が形を確かめるかのように伸ばされた。今生では一度も経験したことのないその場所が、ひくんと収縮する。精液を絡めたドウメキの太い指先が、指の腹を押し付けるようにして蕾を刺激する。 「あっ!」 「ここを使う……、ここに……これを挿れる」  濡れた声が耳朶を刺激する。衣擦れの音でさえ脳を焼くのだ。堪えるような声色が、瞳が、タイランへと真っ直ぐに向けられる。  今、ドウメキの瞳の中にいるのは間違いなくタイランだ。  額が重なる。興奮からか、先ほどよりも伸びたドウメキの犬歯がタイランの下唇を甘く喰む。己だけ服を乱されているのが嫌だった。伸ばされたタイランの手によって、ドウメキの胸元が晒される。   「ふ、ぅう、……っ……」 「わかった、脱ぐから少し待て」  抗議するように胸元の生地を掴む。そんなタイランに気がつくと、ドウメキはゆっくりとタイランから体を離した。  腰布を解く、ドウメキの下肢へと目を向けて後悔をした。幼児の腕ほどはありそうな性器が、しっかりと布を押し上げて主張をしていたのだ。  体格がいいことは最初からわかっていた。ある程度の大きさは覚悟をしていたが、改めてその存在感を前にタイランは絶句した。薄い体を、縮めるようにして丸くなる。  ドウメキが、タイランの様子に苦笑いを浮かべた。腹を抑える己の手に、大きな手が重なった。この手のひらで腰を掴まれたら、きっと逃れられないだろう。そんな想像をして、身を震わせる。 「怯えるのか、煽るのか。どちらにしてくれ」 「ぁぉ、ってない」 「信憑性に欠けることをいう。まあいいが、今更止めるつもりもない。覚悟を決めてくれ」 「ひぇ……」  タイランの目の前に、鋼の体が晒された。皮膚の内側で、筋肉が動く。鍛えられた、戦うもののしなやかな肉体は、皮膚を飾るように紫黒の痣を滲ませていた。  太い血管が走る筋張った腕に、タイランの手が添えられた。親指の腹で撫でるように、目玉の形にも似たドウメキの痣に触れる。 「気味が悪いか」 「好きだ、お前の体……。野性の獣みたいで……」 「お前、……無自覚か」 「え?」  ドウメキの体を飾る痣が、タイランには美しく見えた。雄々しくて、優しい獣だ。大きな手のひらに、黒い爪。男らしく割れた腹筋は、タイランが願っても手に入れられないものの一つである。   体温の高い体も、尖り気味の可愛い耳も、痣の隙間を縫うように走る赤い刺青も。全部がドウメキをかたどる要素であり、欠かせないものだ。  タイランは、気がつけばドウメキへと手を伸ばしていた。上半身を赤く上気させ、黒髪の隙間から濡れた瞳にドウメキを映す。  応えるように、ドウメキが身を屈める。薄い体を囲うように覆い被されば、指通りの良いタイランの黒髪をよけ、まなじりに唇を落とした。 「抱きたい。いいか」 「優しくしろ。でなければ、二度目はないぞ」 「お前が泣いて欲しがるくらい優しくしてやる」  ドウメキの言葉に、タイランは顎を上げるように唇を重ねた。ほんの一瞬の勇気だった。紅い瞳が微かに揺れる。そのまま唇をぺしょりと舐めると、ドウメキの喉奥がぐるりと鳴った。 「覚悟を決めろと言ったな俺は」 「ん、っ……」  耳にしたくない粘着質な水音が、静かな部屋に聞こえる。  タイランの性器を扱うようにして滑りを足すと、ドウメキは蕾に塗りつけるようにして指先を尻の間に収める。  縮こまっていたタイランの足が、再び広げられた。細い足は、ドウメキの腰を挟むようにして収まった。  蕾と、会陰を押すようにしてそこを刺激されると、タイランの腹の奥はじくりと熱を持つ。   体が再び重なった。ドウメキの太ももに足を置く形で体を曲げられると、タイランの勃ち上がった性器はぽろんと腹を叩いた。 「ふ、……んン、ぅ……っ……」 「っ……気を楽にしろ……いいな」 「ぁ、ま……っ……っ」  タイランの喉から、細い声が漏れた。滑りを纏ったドウメキの指の一本が、ゆっくりと挿入されたのだ。  たった一本。それだけのはずなのに、内壁を摩擦するように侵入を果たしてきたそれが、タイランの腹を満たす。蕾は形を確かめるようにドウメキの指に吸い付いた。それがはしたないことのように感じられて、タイランはぎゅっと目を瞑る。  必死で呼吸を繰り返し、力を抜こうとするタイランの膝に、ドウメキが口付けた。労るようなそれに見つめ返せば、切なげな表情を返される。 「深呼吸をしろ、ゆっくりでいい」 「ふ、ぅう……、ぅ、っ……は、ぁ……」 「いいこだ。そのまま少し付き合ってくれよ」  ドウメキの片腕が、タイランの顔の横についた。片手は未だタイランの蕾に指を含ませたまま。熱い性器がタイランの尻たぶに触れる。 (当たっている……っ)  ドウメキの堪えるような息遣いが、タイランの耳朶をくすぐる。尻にドウメキの熱源を感じたまま、同時に腹の中を検分される。  だらしなく開かされた両足は当てどころなく宙ぶらりんのまま、ドウメキの手によって己の腹が探られる様子を見つめていた。

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