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第12話
はらはらと流れ落ちていく涙が、宝石よりも綺麗に輝いている。
それでも俺はその顔が見たいわけじゃない。
狂おしいぐらいに胸が締め付けられて、思うがままに安達を掻き抱く。
「僕、いっぱいいっぱい迷いましたっ。先輩何にも言ってくれないから分かんないしっ!」
「うん。」
いよいよ我慢が効かなくなったのか、涙声で鼻をすすりながら安達は言葉を重ねる。
「期待して裏切られるくらいなら信じたくないしっ、でも先輩のこと凄い好きだしっ、どーしたらいいのって!!」
「うん、ごめんな。」
口から手が出る程望んでいたものが手に入るかもしれない、けれど、それはただの幻なのかもしれない。
だったらいっそ一思いに消えてなくなってくれればいいのに、どれだけ逃げようとも追いかけてくる。
一定の距離だけを開けて。
触れている部分から安達の苦悩が流れ込んでくるようだ。
それが辛くて、でも助けてあげられるほど器用でもなくて、俺は咄嗟に安達の顔を両手で包んだ。
「―――!!」
小さい口。柔らかい唇。
ここから出てくる不満は全部、俺が飲み込んであげる。
「………安達。」
そっと口を離し、額をつけたままの至近距離で瞳を見つめる。
驚きで涙が引っ込んだ大きくて綺麗な目にこの思いが全て届くように。
一つ残らず、余すところなく伝わりきるように、たった一言を大切に大切に声に出す。
「好きだよ。」
「……僕も、」
息を吸う音が聞こえる。
「僕も、大好きです。」
力なく、けれど幸せそうに笑う安達に堪らなくなる。
どちらからともなく隙間を埋めた俺達は、誰もいない屋上で暫くの間そうしていた。
第六章 ~~俺から抱き枕への~~ 完
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