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第11話
冬というには温かく、春というにはまだ冷たい。そんな季節の間を通る風がそよそよと吹いていく。
放課後のチャイムを聞くや否や屋上までやって来た。
五時間目の終了間際まで悩んで悩んで決めた呼び出し場所だ。
風を遮るものが無いここで話をするのはどうかとも思ったのだが、ここが一番相応しいとも思った。
初めて安達と出会い、初めて安達に告白され、初めて安達を抱きしめて眠った場所だから。
柄にもないことを考えてしまったからか、少し緊張する。
とくとくと逸る心臓。少し汗ばんできた掌。視線の先で鉄製の扉が開いた。
「あ!………お待たせしました、すいません!!」
「んーん、俺もさっき来たところだから。」
普段なら安達が先に来ていることの方が多いから、俺が先に来ていて驚いたのだろう。
タタタッと駆けてきた安達が逡巡した後、微妙な距離を開けて止まる。
これが俺が安達を生殺しにしている証拠だ。
俺が好きなのは花が開くような笑顔で、こんな申し訳なさそうに眉を下げる表情じゃない。
「話って何ですか?」
こちらを見上げているのに会わない視線がもどかしい。
もっと手の届く距離にいたい。
頭を撫でて安心させてあげたい。
けれど自分の思うままに動いて安達を苦しめるのは嫌だから、先ずはちゃんと言葉にしよう。
耳元で心臓が鳴っているような気がする。
俺の緊張が安達にも伝わっているのか、お互い黙り込んでしまう。
風が、止んだ。
「…………好きだよ。」
一言、そう告げると安達の瞳がぐっと大きくなる。
やっと視線が合ったことにほっとして、ゆるゆると頬が緩んでいく。
………………。
で、この後どうすればいいんだ???
瀧藤の言う通り告白したのはいいけれど、その次に何をすればいいのかが分からない。
安達はまだ目を見開いたまま固まっているし……誰か助けてくれ。
「っ!!」
「っわ!どうした。」
本当にどうすればいいか分からなくて戸惑っていると、ダッと勢いよく安達が飛びついてきた。
俺の腕ごと抱きしめられて身動きが取れない。
腹に埋まった安達の口がもごもごと動く。
「………ぅぃっかぃ。」
「ん?」
「……もういっかい。」
蚊の鳴くような声でそう言った安達は、また黙り込んでしまう。
もう一回っていうのは告白のことだろうか……。
確信が無いままにもう一度好きだと言うと、安達の腕がぎゅうっと締まったので、どうやら正解らしい。
「……もう一回。」
「好きだよ、安達。」
「もう一回!」
「好き。安達が好き。」
強請られる度に応え、応える度に巻きついた腕に力が入る。
多分喜んでいるはずだと兎に角何度も何度も安達の要望を叶えていると、段々腹の辺りが湿ってくる。
もしかして、泣いてる?
慌てて安達を引き剥がしてみれば、案の定綺麗な目から音も無く涙が零れていた。
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