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第1話 夜中の散歩。
夜中の散歩。引きこもりの僕の秘密の時間。
空気に夏の匂いが混じる5月の夜。いい匂いがする。夜の匂い。草の匂い。誰もいない夜の街道。
でもその夜は違った。向こうから誰か歩いて来る。田舎なので、昼間だって人通りは少ない。まして今は夜中だ。
「やあ、こんばんは。夜の散歩かい?」
その人は気さくに声をかけて来た。
「僕、時々散歩しながら夜空を観察してるんです。特にこんな晴れた新月の夜には星が綺麗だから。」
「はは、満月だったら狼男になってしまう。」
その人は笑った。笑った時に出来る口元の皺に胸がキュンとした。何だろう、この感じ。この人は何才くらいだろう?僕よりずっと年上みたいで、何だか甘えたくなるような不思議な人だった。
外国人の血が入っているような、綺麗な人だ。背が高い。それから毎晩のように、夜の散歩で出会うようになった。
その人に会いたくて散歩するようになった。僕は小さい頃から星を見るのが好きだった。
それで、自分なりに星の本を読んだり、ネットで調べたりするようになった。
ここは海の近く。だけど津波対策で高い土手が出来て海は見えない。海鳴りだけが聞こえる。夜、一人で海岸に行った事はない。夜の海って怖い。
この町に住んで良かったのは空が綺麗な事。
晴れた日、昼間は青空が澄み渡っている。雲もいい。それにも増して夜空。星が輝いている。
夜明けのあの微妙な色合いも素敵だ。その内に
窓から眺めているだけでは物足りなくなって、夜中にこっそり家を抜け出すようになった。
引きこもりの僕にとって夜ほど心強いものはない。夜は自分一人の世界。外に出て一人で見る星空は、僕をここではない何処か、遠い世界に誘ってくれる。
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