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7年前──第29話*
「ひっぃいい、出、る……またでるぅ、でるからァ、やめ、──ッ」
「いいよ。からっぽになるまで出して。からっぽになっても、いっぱい突いてあげる──から!」
「あァ、あぁあ……ひ、ひぁッ」
ばちゅんばちゅんと打ち付けられるリズムに合わせて、零れる透明な体液がマットを汚した。
縛り付けられた手首の感覚がどんどん無くなっていく。
途方もない快感からの、逃げ場がない。
イヤなのに、苦しいのに、やっぱり自分の後孔は、姫宮の熱にむしゃぶりついてしまう。背中を這いあがってくる姫宮の舌にさえ、感じてしまって。ぐすぐすと赤ん坊みたいに鼻を鳴らしながら悶える。
脇腹を抱え込まれ、軽い膝が何度も浮きあがった。
ダメだ、星が散る。目の奥で、白い星が。
気持ちいい、きもちい、キモチイイ……もうそれしか考えられない。
圧倒的なαの前に、Ωはあまりにも無力だった。
「やだ、きもちいのやだぁ! ゃっ、きもひっの、とめてぇ、止めっ──ッ、おッ、ほ」
はひはひと舌が零れて、糸状の涎がだらだらと溢れる。ぐりぐりと濡れた鼻先を襟足に押し付けられて、すぅー、はぁー……と、大きく息を吸い込む音まで聞こえてくる。
「いい匂い……透愛の、におい」
ガツガツ腰を打ち付けてきながら、くんくんと鼻を鳴らす姫宮は犬みたいで。
ふぅ、と湿った吐息がかかって、うなじにがぶりと歯を立てられた。噛み付かれた甘い痛みにびりりっと指先までもが震え、がじがじと強く噛まれるともっと気持ちよくなって……あ、れ。
「ふぁあ……、ァ……?」
何か、大事なことを忘れているような──あ、そうだ。
(え、いま、うなじ噛まれた? 噛まれちゃったら、おれ……)
そうだ、Ωに変異して、姫宮と、番に──正気に戻り、ざぁっと血の気が引いた。
「お、おま、おまえ、なに、やって……ッひ──姫宮ッ……ぐ!」
恐る恐る振り返る前に、頭をひっつかまれてマットに叩きつけられた。
「う……うそ、ダメ、う──ァああっ……!」
肉食獣のように鼻息も荒くうなじに噛み付かれたまま、姫宮に強く抱き込まれて、奥まで繋がって。
子宮の奥に、びゅるるっとぶちまけられた。
「ぁ……あひ……ぁ、あぅ」
がくんと膝から力が抜け、完全に突っ伏す。
硬度を保つそれをぬちゃぬちゃと擦り付けられ、尿道に残る一滴すら注ぎ込まれる。中に出された衝撃で、自身もびゅるるっ、ぴゅくっと断続的に吐精する。
「は、あぁ……」
「わか、る? 今、透愛のナカに、僕のせーし、出てるんだよ……ン、まだ、イク……」
「や、ぁ……、せーし、やっ……はら、くるひ……」
「ダメ。飲んで、全部……」
「ぁ……あひ……ぁ、あぅ」
どぷどぷと、すさまじい量の体液が全体に広がっていく感覚に、ひぃひぃ咽び泣いた。
(ま、だ、でてる……しきゅーに、びゅーびゅー、せーし、出てるぅ……ッ)
長い長い射精が終わった頃には、指一本動かせなくなるほど、疲弊していた。
「は、ひ」
「番っちゃったね」
「ぅ……そ、うそぉ……」
嘘だ、こんなのうそだ。そうだこれは現実じゃないんだ、俺は発情なんかしてなくて、本当の俺は今頃家に帰っていて、汗ばんだ身体が気持ち悪いからシャワーを浴びてガシガシ身体を洗って、お風呂から出たら夕飯の美味しい匂いが漂ってて、透貴に今日あったことを報告しながら一緒にご飯を食べて……透貴に、食べカスついてますよって口を拭いてもらって、俺は大好きな透貴に抱きついて……
「嘘じゃないよ。これで君は僕の可愛いΩだ。もう僕以外の誰にも、こんなエッチな姿見せちゃダメだからね?」
首をぶんと振る。
しかし、悲しいことに首の痛みは本物だった。下半身に力が入らず、マットにぺたりと垂れた自身の陰茎から、しょろろ……っと、精液とは違うものが溢れてしまった。
「ああ、なんだ。ふふ、本物のおもらししちゃったんだね、とあ」
黄色い尿が染みこんだマットの上で、すりすりと、後ろからうなじの辺りに鼻を擦りつけられた。
「おしっこ出ちゃうくらいよかったんだ。かわいいね……」
腹に巻き付いてきた腕に再び上を向かされた。
繋がったままぐるんと身体を動かされて、ぐじゅりと弾ける結合部に唸り、ゆるく首を振る。
「あっ、ぁあ……ッ」
「でももったいないなぁ、次はちゃあんと、飲んであげるからね」
飲むって、何を? 頭の中が霞がかっていて、姫宮の言葉の半分も理解できない。
「……め、みや、ぁ」
「なぁに?」
「の、ど、かわい。た……」
喉がカラカラに乾いて仕方がなかった。この密室はむわっと暑い、いや熱い。熱気が渦を巻いている。ぴったりと体をくっつけられるだけで、身体中の水分が飛びそうだ。
「お水ほしいの?」
こくこくと頷けば、姫宮が近くに転がっていた俺の水筒を手に取り、かぱっと蓋を開けてくれた。そのまま流してほしくて口を開けたのだが、それが直で注がれることはなかった。
姫宮が水筒を口に含み、ぐいっと傾けた。
しかし彼の喉は上下しない。姫宮の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
命じられる前に口を開けば、しっとりと唇を重ねられた。お茶が喉を通っていく。だいぶぬるくなってはいたが、それはまさしく天の恵みのような味だった。
「おいしい?」
「おい、し……」
ぼうっとしたまま、頷く。従順になった俺に気分を良くした姫宮が、何度か口移しでお茶を飲ませてくれた。親鳥に餌を与えられる雛のように、かぱりと口を開いて受け入れる。
これを逃したらもう水分は取れない。
命の綱を、姫宮に引っ張られている気分だった。
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