30 / 227

7年前──第30話*

「も、っと……」  でも、まだ足りない。水が欲しくて欲しくて喉が痛む。 「ダメだよ。ちょっとずつ飲まないとすぐになくなっちゃうからね。我慢しよう」  真っ赤になった鼻に吸い付かれる。とめどなく溢れる涙も丁寧に舐め取ってもらえた。ちゅ、ちゅっと顔中を啄んでくる優しい唇に、姫宮の中の嵐は去ったのだと、思った。 「ひめ、み、や」 「誰? それ」 「……じゅ、り」 「ん、なぁに?」 「も、かえ、ろ」  姫宮が不思議そうに首を傾げた。もう窓の外は日も落ちかけて、薄暗くなっている。  もうそろそろで門限だ。そういえば、夜にかけて雨になるって、天気予報で言ってた。 「家、かえろ。もぉ、おわり……かえろ……かえりたい、よ」  誰にもいわないから。 「おなか、すいたよぅ……」  からからに乾いた声で訴えても、姫宮は俺の話を聞いているのかいないのか、汗で前髪が張り付いたおでこにもキスをしてくる。 「お腹すいたの?」 「う、ん」 「今夜のごはん、ハンバーグだっけ?」 「うん……」  長い髪がさらさら鎖骨を撫でてきて、くすぐったい。 「そう。でも帰さないよ」 「え……」 「だって君はもう僕の番だもの。透愛はね、一生僕とここにいるんだよ」  何を、言っているのか。ふるふると首を振る。 「む、むりだよ。と……」  怒り狂った姫宮の悪鬼の如き表情を思い出して、言い直す。 「に、兄ちゃんが、心配、する。む、むかえにくるよ。そしたら、な? 姫……じゅりが、怒られちゃうから、だから、もう」 「平気さ。ここにいることは誰にもバレやしない。さ、続きをしよう? 僕もう、我慢できない……」  耳元で囁かれた姫宮の声は、まだまだ熱っぽい。  もちろん、突き刺さったままのそれが小さくなる気配もない。繋がったところをぬるりと撫でられ、隙間に捻じ込まれた指をぐぷぐぷ抜き差しされたことで、姫宮が本気であることを知る。 「じゅ、り」 「はぁ、すごいね、中からとろとろ溢れてくる。可愛いね、透愛……かわいい、かわいいなァ」 「無理、だ、樹李、じゅりぃ、お願いだからもう、ぬいて……お願い」 「イヤだ」 「しきゅー、痛ぇ、もう、せっくすできねぇよ……」 「わかる? 僕が出したものに透愛の蜜も混じってるよ。次はもっともっと、気持ちよくしてあげるからね」 「姫宮、お願いだから、も……ゆるし」 「うるさい」  ぐっと、首に手が巻き付いてきた。簡単に、息が堰き止められる。 「ぁ、か……」 「僕のものだって君は言っただろう? あれは嘘だったの? これ以上嘘をつくなら僕にも考えがあるよ……お腹の中に僕の腕、ぜんぶ突っ込んでみようか」  至近距離から覗き込んでくる姫宮の顔が見られない。 「僕のものになりたくないのなら必要ないよね。子宮、引っこ抜いてあげようか?」  きっと、空洞のような目で俺を見てる。カタカタと体が震えて止まらない。 「僕から離れようとしたら赦さない。君をお兄さんの元へは帰さない──絶対に」  怖い。このまま食われ続けたら死んでしまう。誰か、誰か助けて……誰か。 「誰もいないなー?」  ガララっと扉を引く音と共に、聞こえてきた声。聞き覚えのある声だった。仲のいい、用務員のおじさんの巡回だ。姫宮の手が一瞬、緊張で強張った。  今しかない。助けて。そう声を張り上げたいのに。 「ダメだ」 「……っ、」  しっかりと口を塞がれ、首を絞める手にぐぐっと力を込められた。 「いい子にしてろ」  少しでも助けを求める素振りを見せれば、首の骨を折られてしまいそうな緊張感。  ある程度用具室の中を見て回ったらしいおじさんの足音が、遠ざかっていく。扉でしっかり閉ざされているため、こっちの部屋には来てくれない。  どうしよう、行っちゃう。手も足も動かせない。でも何か、合図を。誰か、誰か──お願いだ!  祈りも虚しく、再び倉庫の扉が閉められた。  ガチャンとかけられた、絶望の鍵の音。 「……うん、よくできました」 「げ、ッほ、け、ふ」  足音が完全に消えた頃、手が緩められた。かひゅっと酸素と唾が入り込んできて、激しく咳き込む。えらいえらい、とばかりに頭を撫でられた。  ぱらぱらと、屋根を叩く音。天気予報通り、雨が降ってきたらしい。  朝方にかけて、雷雨を伴う激しい雨が降る。  姫宮が、恐ろしい獣が、舌なめずりをした。 「ご褒美に、朝までたっぷり注いであげるね」 「こわ、れる」 「いいよ」  ふと真顔になった姫宮が、再び覆いかぶさってくる。 「好きなだけ壊れろ」  姫宮の目は、真剣そのものだった。 「君が壊れても、責任もって僕がずっとずっと可愛がってあげるから。ね?」  気が、遠くなる。 「僕の可愛い透愛。これからはずっと一緒だよ……」  熱い、暑い。  泣く、哭く。  揺れる、濡れる。  侵される、犯される。  ざぁざぁと、本格的な夏の雨が降る。  激しく鳴いていた蝉の声も、俺の悲鳴も、全てかき消されるほどの勢いで。  日焼けした俺の足が、姫宮の肩でガクガクと揺れる。真っ白な姫宮の肌が、赤く染まる。  すっかり雨が止んで、爽やかな朝日が小窓から注ぐ頃になっても。  姫宮は俺を、揺さぶり続けた。  ────  R18シーンは終了です。  お付き合いいただき感謝です。  本日のお仕事、そして学業を終えた皆様方、今日もお疲れ様でした。  明日の朝からの更新も、どうぞよろしくお願いいたします…!    

ともだちにシェアしよう!