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7年前──第30話*
「も、っと……」
でも、まだ足りない。水が欲しくて欲しくて喉が痛む。
「ダメだよ。ちょっとずつ飲まないとすぐになくなっちゃうからね。我慢しよう」
真っ赤になった鼻に吸い付かれる。とめどなく溢れる涙も丁寧に舐め取ってもらえた。ちゅ、ちゅっと顔中を啄んでくる優しい唇に、姫宮の中の嵐は去ったのだと、思った。
「ひめ、み、や」
「誰? それ」
「……じゅ、り」
「ん、なぁに?」
「も、かえ、ろ」
姫宮が不思議そうに首を傾げた。もう窓の外は日も落ちかけて、薄暗くなっている。
もうそろそろで門限だ。そういえば、夜にかけて雨になるって、天気予報で言ってた。
「家、かえろ。もぉ、おわり……かえろ……かえりたい、よ」
誰にもいわないから。
「おなか、すいたよぅ……」
からからに乾いた声で訴えても、姫宮は俺の話を聞いているのかいないのか、汗で前髪が張り付いたおでこにもキスをしてくる。
「お腹すいたの?」
「う、ん」
「今夜のごはん、ハンバーグだっけ?」
「うん……」
長い髪がさらさら鎖骨を撫でてきて、くすぐったい。
「そう。でも帰さないよ」
「え……」
「だって君はもう僕の番だもの。透愛はね、一生僕とここにいるんだよ」
何を、言っているのか。ふるふると首を振る。
「む、むりだよ。と……」
怒り狂った姫宮の悪鬼の如き表情を思い出して、言い直す。
「に、兄ちゃんが、心配、する。む、むかえにくるよ。そしたら、な? 姫……じゅりが、怒られちゃうから、だから、もう」
「平気さ。ここにいることは誰にもバレやしない。さ、続きをしよう? 僕もう、我慢できない……」
耳元で囁かれた姫宮の声は、まだまだ熱っぽい。
もちろん、突き刺さったままのそれが小さくなる気配もない。繋がったところをぬるりと撫でられ、隙間に捻じ込まれた指をぐぷぐぷ抜き差しされたことで、姫宮が本気であることを知る。
「じゅ、り」
「はぁ、すごいね、中からとろとろ溢れてくる。可愛いね、透愛……かわいい、かわいいなァ」
「無理、だ、樹李、じゅりぃ、お願いだからもう、ぬいて……お願い」
「イヤだ」
「しきゅー、痛ぇ、もう、せっくすできねぇよ……」
「わかる? 僕が出したものに透愛の蜜も混じってるよ。次はもっともっと、気持ちよくしてあげるからね」
「姫宮、お願いだから、も……ゆるし」
「うるさい」
ぐっと、首に手が巻き付いてきた。簡単に、息が堰き止められる。
「ぁ、か……」
「僕のものだって君は言っただろう? あれは嘘だったの? これ以上嘘をつくなら僕にも考えがあるよ……お腹の中に僕の腕、ぜんぶ突っ込んでみようか」
至近距離から覗き込んでくる姫宮の顔が見られない。
「僕のものになりたくないのなら必要ないよね。子宮、引っこ抜いてあげようか?」
きっと、空洞のような目で俺を見てる。カタカタと体が震えて止まらない。
「僕から離れようとしたら赦さない。君をお兄さんの元へは帰さない──絶対に」
怖い。このまま食われ続けたら死んでしまう。誰か、誰か助けて……誰か。
「誰もいないなー?」
ガララっと扉を引く音と共に、聞こえてきた声。聞き覚えのある声だった。仲のいい、用務員のおじさんの巡回だ。姫宮の手が一瞬、緊張で強張った。
今しかない。助けて。そう声を張り上げたいのに。
「ダメだ」
「……っ、」
しっかりと口を塞がれ、首を絞める手にぐぐっと力を込められた。
「いい子にしてろ」
少しでも助けを求める素振りを見せれば、首の骨を折られてしまいそうな緊張感。
ある程度用具室の中を見て回ったらしいおじさんの足音が、遠ざかっていく。扉でしっかり閉ざされているため、こっちの部屋には来てくれない。
どうしよう、行っちゃう。手も足も動かせない。でも何か、合図を。誰か、誰か──お願いだ!
祈りも虚しく、再び倉庫の扉が閉められた。
ガチャンとかけられた、絶望の鍵の音。
「……うん、よくできました」
「げ、ッほ、け、ふ」
足音が完全に消えた頃、手が緩められた。かひゅっと酸素と唾が入り込んできて、激しく咳き込む。えらいえらい、とばかりに頭を撫でられた。
ぱらぱらと、屋根を叩く音。天気予報通り、雨が降ってきたらしい。
朝方にかけて、雷雨を伴う激しい雨が降る。
姫宮が、恐ろしい獣が、舌なめずりをした。
「ご褒美に、朝までたっぷり注いであげるね」
「こわ、れる」
「いいよ」
ふと真顔になった姫宮が、再び覆いかぶさってくる。
「好きなだけ壊れろ」
姫宮の目は、真剣そのものだった。
「君が壊れても、責任もって僕がずっとずっと可愛がってあげるから。ね?」
気が、遠くなる。
「僕の可愛い透愛。これからはずっと一緒だよ……」
熱い、暑い。
泣く、哭く。
揺れる、濡れる。
侵される、犯される。
ざぁざぁと、本格的な夏の雨が降る。
激しく鳴いていた蝉の声も、俺の悲鳴も、全てかき消されるほどの勢いで。
日焼けした俺の足が、姫宮の肩でガクガクと揺れる。真っ白な姫宮の肌が、赤く染まる。
すっかり雨が止んで、爽やかな朝日が小窓から注ぐ頃になっても。
姫宮は俺を、揺さぶり続けた。
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R18シーンは終了です。
お付き合いいただき感謝です。
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