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俺たちの関係──第33話

「可愛い女の子とセックス、だって? はは、確かにいい提案だな。君みたいな無神経極まりない男を抱くよりも、そっちの方が身も心も安らげそうだ」  ひゅわっと胸が膨らんだ。自分で言ったことなのに、いっちょ前に傷付くなんて馬鹿げている。 「ただし、その代わりに僕からも提案がある」 「なん、だよ」 「子ども、作ってみようか」 「……は?」  目が点になった。 「僕らは体の相性もいいし、Ωは特に孕みやすいからね。本気でやればすぐに妊娠すると思うよ。そろそろ邪魔な避妊具、取っ払ってみようか」 「お、おまえ子どもほしかったのか? そんなの一言も」 「誰がいるかよ、あんな煩いだけの生き物」 「……なに言ってんの?」 「別に、興味があるだけだよ。僕が注いだ種で君のこの薄い腹が膨れたら……もう二度と、そんな馬鹿げたこと言わなくなるのかなって。いいだろう? 僕らは番で、夫婦なんだから」 「な、なに急にキレてんだ。どけよ、重──いたッ」  今度は強引に、両手を頭上でひとまとめにされてしまった。本格的に圧し掛かられて、みしみしと骨が軋む。本気で痛い。 「子どものひとりやふたり、ここに、孕ませてみたら……」  前髪から覗く双眸は、鋭く俺の腹を睨んでいる。まだ何も履いていない下半身をぐいっと割り裂かれて、ざっと青ざめた。  俺はまだ素っ裸のままだ。 「ちょっ……待てって!」 「うるさい。大人しく鳴いてろ」 「……っ」  いつになく乱暴に吐き捨てられ、避妊具無しで熱い肉の杭を押し付けられた。繋がったばかりで解れた後孔は、力を入れずともぐちゅりとそれを飲み込みかける。 「ちょ、ちょっと待て、おいやめろ……ッう、嘘だろ……ッ、姫宮──嫌だ!」  そう腹から叫んだ瞬間。 「何を……してるんですか!」  バキンと鈍い音と共に、目の前から姫宮がかき消えた。  * 「このクソガキがっ、よくも透愛に!」  兄が倒れた姫宮の胸ぐらを掴み上げ、さらに拳を振りかぶろうとしている。  心配で、帰ってきてくれていたのか。 「透貴、待てストップ! 違う、違うからっ」 「何が違うんですか! あなた、またこの男にっ」 「違う、合意だ!」  腕にしがみ付いて叫べば、ぎしっと兄の拳が固まった。今しかないと、畳みかける。 「合意なんだ、ちょ、ちょっと言い合いになっただけで、なんでもないから……! 姫宮も本気じゃなかったし、な! そうだよな! ただ、俺らふざけて……て」  姫宮はうつむいたままだ。透貴のぶるぶる震える腕が、ゆっくりと下がっていく。 「言いましたよね、私。大学卒業まで透愛はこの家の子だと。ここに入る時は私の許可を得てからにしろと」  姫宮は黙ったままだ。口の端から垂れた赤を、拭いもしないで。 「私は……貴方が憎い。殺しても、殺し足りないくらい……でも、でも貴方がいなければ透愛は生きていけない。貴方に捨てられれば、透愛は狂って死ぬ」  透貴が、歯の隙間から唸る。 「だから殺さないんです。そんな私の苦しみが、貴方にわかりますか?」  姫宮は、透貴の怒りを全て受け止めているように見えた。 「悔やんでも、悔やみきれません。あの日私が、もっと早くに気付いていれば……籍だって、本当は入れさせたくなかった。でも、でも、他のΩと同じようにボロボロにされるくらいだったら、責任を取ると言った貴方と義隆の言葉を信じようと思ったんです……!」 「と、き」  透貴が俺の前で、姫宮の父親を呼び捨てにしている。滅多にないほど頭に血が昇っている証拠だ。透貴の歯ぎしりが、聞こえてくる。 「出ていきなさい、この(ケダモノ)!」  透貴がようやく姫宮を解放し、切りつけるように扉を指さした。

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