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俺たちの関係──第39話

「橘」  と、呼び止められた。  律儀に足を止めてしまったのは、姫宮に対して苛ついていたからだ。  他に理由なんてない──絶対に、ない! 「なんだよっ、まだ言い足りねぇことあんのか」 「ああ、ある」  どうでもいいことだったら今度こそ蹴っ飛ばしてやる、マジで。  するりと手首に指が絡みついてきた。指環のサイズは変わらないはずなのに、姫宮の長い指は俺の手首を軽く一周してしまう。 「夏祭り、楽しみにしてるから」 「──は?」  耳元でぼそりと囁かれて、バッと振り仰ぐ。  しかし、そこに残っていたのは姫宮の流し目の残骸。しかもその向こう側から、駆け寄ってくる瀬戸の姿が見えた。  俺が姫宮と一緒にいることが意外だったのだろう、「え?」みたいな顔で足のペースを遅くした。  姫宮は瞬時にいつもの上辺だけの笑みを張り付けて、近づいてきたに瀬戸にも挨拶をした。 「やあ、こんにちは」 「……ども、っス」  こんにちは、の後に何も続かなかったということはやっぱり瀬戸の名前覚えてねーんだな、こいつ。  というか同級生だというのに、どうしては瀬戸は姫宮に敬語を使うのか。  まぁ気持ちはわからないでもないけれど。  姫宮は俺を振り返ることなく、颯爽と去っていった。 「か~、相変わらず爽やかだな。やぁってなんだよやぁって。俺もやぁって綾瀬に言ってみっかな、死ねば? って言われそうだけど」 「……なんだよ、欠片も興味ねぇっつったくせに」  遠くなる背中に唇を尖らせつつ、まだ温もりの残る手首を擦る。 「なにが?」 「えっ、いや、なんでもない」 「どうしたよお前、なんか顔赤くね?」 「あ、あーうん、ちょっとここ、暑くてさ」 「木陰じゃん。で、姫宮と何話してたんだよ~、殴り合ってついに友情芽生えたとか?」  決闘場所は河川敷か~? とかニヤニヤ顔で脇腹を突かれた。近くに河川敷なんかねーだろ。 「だから殴ってねえっつの。今朝もみんなにお前だろ~? とか言われて焦ったし……姫宮の取り巻きにも絡まれて大変だったんだからな。誰だよ、噂流したやつ~!」 「え……マジ? あーらら、それはそれは……」  やけに歯切れが悪くなった瀬戸に、秒で察した。  伊達にこいつと数か月友達やってない。「瀬戸~?」と目を合わせようとするが、瀬戸は「やっべ」みたいな顔でひょいひょいと視線を外してばかりだ。  なので、がっちりと肩を掴んでこちらを向かせる。 「おい」 「……ごめんっ! 実はぁ、朝ぁ、吉沢さんから、LIME来てぇ」 「俺がやったって言ったのかよ!」 「ちげーよ! いやほら、おまえら仲悪そうだったじゃん? だからもしかしたら橘が一発ブン殴ったんかな~あっははって、軽口の憶測で……いやその顔やめて! ガチじゃねぇって、冗談だったんだって!」 「同じことだろ、おまえよくもっ」 「だって吉沢さん可愛いんだよぉ~! おまえ知らないの? 吉沢美月ちゃん!」 「いや知らないし、誰だよ!」 「はぁああ!? 大学で姫宮の次に有名な子なんだぞっ、アイドルみてーに可愛いんだからなっ、男としてその発言はどうよ! 俺はそんな子に『教えてくれてありがとう瀬戸くん♡』なんて言われたんだからな! あ、LIME見る? これ脈ありかな? デートに誘われたらどうしよ」  デレデレと鼻の下をとろけさせた瀬戸に真顔になる。 「なぁなぁ橘、この前着てた服ってどこで買った? 俺もお前と同じの着て吉沢さんと、いや美月ちゃん……いや美月とデート行きたい! だから来週買いもの、付き合って♡」  えへ、としなをつくった瀬戸に額がピキついた。  おまえが語尾にハートをつけるな。  初めて、瀬戸よりも10cm以上背が高くてよかったと思った。  そのつむじ目掛けて、結構な力を込めて脳天チョップをお見舞いできたのだから。  ──────────────  1話のみの更新ですみません~  明日の更新もよろしくお願いいたします。

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