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夏祭り──第40話

 空、晴れ。暑さ、そこそこ。  まさに、絶好の夏祭り日和。  ポンポンと、グループでメッセージが届く。「楽しみ~」とか「みんなで浴衣着てこーね」とか……時々瀬戸が「可愛い子いるかな~?」なんて空気の読めない発言をし、「てめぇは女なら誰でもいいのか」「黙れ」「もぐぞ」と女子から一斉攻撃を受けていた(「もぐほどなかったな?」なんて風間さんが返したものだから、暫く綾瀬からの連絡が途絶えた。瀕死だったのだと思う)。  俺はというと、友人たちの会話に時々混ざりながら。  朝からず~っと、そわそわしていた。    *    実は誰かと一緒に夏祭りに行くのは、小学校以来だったりする。  立ち並ぶ屋台から漂ってくる、食欲をそそる香り。  待ち合わせは、広い神社の鳥居の前。他にも待ち合わせしているグループがいたが、ぴょこぴょこ飛び跳ねている目印が1人いたので、すぐに見つけることができた。 「透愛、こっちこっち」  カツカツと石畳に引っ掛かる下駄と、ひらひらと腕に絡んでくる浴衣の袖に苦戦しながらも、巾着を揺らしながら手を振っている由奈たちに駆け寄る。 「よーっす」 「わっ、透愛、浴衣すっごく似合ってるね」 「だろ? これ兄貴のお下がり」 「可愛い~」  コケそうになる。 「待て、そこはカッコいいの間違いだろ」 「うーん、橘はカッコいいっていうよりも、ねぇ?」 「ねぇ、童顔だし」 「顔がクシャついてるから犬みたいっていうか」 「顔が……くしゃ……犬」 「あ、褒めてるからね」 「笑顔が可愛いってことだよ。あ、ヘアピンつけてみる?」 「ぜんっぜん褒められてる気がしねぇんだけど!?」  夏祭りの独特な雰囲気に当てられてか、全員のテンションが高い。  男子も女子も華やかな浴衣を身に纏い、どれも似合っている。 「お、橘。気合い入ってんな~」 「おー、おまえらもいいじゃん」 「全員浴衣縛りで正解だったなぁ、みんなの意外な一面が見れたし」  瀬戸は明るい黄色、風間は落ち着いた深緑色。そして綾瀬は朱色の……よくわからない柄だった。  シックな服装を好む彼にしては珍しい。 「綾瀬すげー派手! でも着こなしてんな」  滅多に見かけない色合いで、かなり高そうだ。 「実家呉服屋なんで」 「そういやそうじゃん、ぼちぼちでっか?」 「カツカツだわ」  渋そうな顔で言ってくるものだから噴き出してしまった。 「綾瀬その髪型かわい~、誰にやってもらったの?」 「姉」  女子たちもそうだ、それぞれ花柄やトンボ柄と色々あるが、どの浴衣も似合っている。  ちなみに俺は、破れ七宝柄があしらわれたベージュの布地だ。  無地の黒帯をしめたら全体的にきゅっとひき締まり、我ながらいい感じに仕上がったと、ちょっとホクホクだ。  透貴にも「カッコいいですね」と褒められたし、しかも「こんなに大きくなって」なんて目頭に涙を溜めてしみじみと言われた。  小さい頃に俺が着ていた浴衣を、透貴は今でも大事に段ボールにしまい取っておいてくれている。  俺としてはもう着られないのだからどこかに売ることを提案したのだが、透貴に「それはダメです」なんて怒られた。  親の心子知らずというやつだろう。  ちらちらと辺りを見回す。まだ一人足りないな。  いつ、来るんだろう。 「姫宮もくるんだろ?」  瀬戸の一言で、朝からざわついていた胸がより一層高鳴った。 「うーん、もうすぐで着くと思うんだけど」 「マジで来んの? 朝まで信じられなかったんだけど」 「マジよマジ」 「すごいよねぇ由奈、あの姫宮くんから約束もぎ取っちゃうんだもん」 「なんでなんだろうな? 俺らほとんど話したこともないのに」 「なぁ、姫宮いたら可愛い子釣れるよな!? 俺姫宮の隣歩きたい」 「顔面と歩幅で絶対遅れ取るからやめとけ」 「恥晒すだけよ瀬戸」 「いやひど」  などなど、受け止め方も三者三葉だ。  そう、姫宮が来る。  姫宮と屋台を、回る。正確には姫宮も含めて全員とだけど。  透貴には、今日姫宮が来ることは伝えていない。 (だって姫宮も来るっつったら、止められそうそうだったし)  出張も取りやめるとか言い出しそうだ。  ただ、「お友達と楽しんできてくださいね。あ、連絡はちゃんと寄こすこと」と送り出してくれた透貴に、罪悪感に近い何か重たいものは圧し掛かっていた。  透貴は、姫宮と俺が近づくのをよく思っていない。  それはわかってる、けど。 「あ、きたきた。姫宮くーん、こっちだよ、こっち!」  わっと全員が色めき立った。

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