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透愛と樹李──第184話

 * 『君はそういう人間だ。だから、だから僕は、君の──』  ものに、なりたいんだ。 『全部全部君のせいだっ、信じられない、どうして君のような無神経な馬鹿に……僕は……ッ、どうすれば──どうすれば僕は、君の……ッ』  ものに、なれるんだ。 『変わってない……君は、あの頃から何一つ、変わらない。だから僕は、君の』  ものになりたい。  そうか、答えはこんなにもシンプルだったのだ。君のことを憎んでいるでも、君のことを捨てたいでもなかった。  僕のものになってくれないのなら僕が君のものになりたい。  そういう、ことだったのだ。  ──俺は、樹李のものです。  あの狂乱の夜、狂ったように言わされ続けたセリフは、俺の口の中で出口を求めて彷徨い続けていた。  7年ぶりに、その出口がやっと見つかった。  光る出口に向かって、手を伸ばす。  * 「頼む……君が、誰を好きでもかまわないから、君のものにしてくれ。なんでも、するから……っ」  姫宮の声が、みっともなく震えている。  もう、頑なに前を向いているのもここまでが限界だった。ここまできたら下手な小細工は通用しないし、そんなことをするつもりもない。  こいつにここまで言わせて、黙っているなんて漢じゃない。  違う。  俺じゃない。   「──いいぜ。その代わり条件がある」  かろうじて指にひっかけてたリモコンを、かたりと台の上に置いてしばらく下を向き、目を閉じる。 「……なんだ」 「おまえ、今から俺が言うこと全部呑める?」 「……ああ、ああ。なんだってする。もう恥も外聞もない」 「絶対に?」 「絶対、だ」 「そっか。じゃ、俺をおまえのものにしろよ」  姫宮が数秒、押し黙った。聞こえなかったはずはない。だから、「聞こえませんでした」なんて逃げに走れないよう、もう一度強めに言ってやる。 「俺を、おまえのものにしろ」  ここで、思いっきり振り向いてやった。 「そしたらおまえのことも、俺のものにしてやるからさっ」  そりゃあもう、ぐるんっと。空中で回転するフィギュアスケーターみたいに。  姫宮は、電動ベッドで上体を起こして俺を見ていた。突然そっちを向いた俺と目があったものだから、姫宮の肩がちょっとだけびくっと震えた。  その間抜けすぎる顔に、にっと歯を見せて笑ってやる。    今俺が、胸を張ってこいつに伝えたい言葉は、これだけだ。 「──好きだぜ、姫宮! たぶんガキん頃から、ずっとな」

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