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第1話 プロローグ

「お前、誰?」 その一言に天海 時雨(あまみ しう)の視界は真っ暗になった。 心は絶望に陥り、頭の中は真っ白となる。 最愛の恋人、黒田 圭(くろだ けい)が記憶喪失になったのだ。 学校帰り、二人は街を散策していた。 他愛ない話をしながら共に時間を過ごし、手を繋いでは愛を囁き合った。そんな二人が分かれた数分後、圭が自動車事故に遭い病院へ運ばれたと時雨は連絡を受けたのだ。 時雨は生きた心地がしない思いで病院へ辿り着いた。 震える足で圭のいる個室の病室へ入ると、そこにはベッドに腰掛ける恋人がいた。 有り難くも想像より遥かに元気そうな姿に時雨は安堵の息を吐いた。 しかし、それは自分の知る彼ではなかった。 一時間前まで隣で笑い合い、愛の言葉を囁いていた男は別人格となり、冷たい瞳と声で時雨を追い詰めてくる。 「悪いけど、お前のこと思い出せねーわ。パシリかなんか?」 琥珀色の前髪を掻き上げながら髪と同じ色の瞳が時雨を射抜く。 いつも優しかった口調は面倒臭そうで見下すように罵ってきた。 「お前みたいなダッセェ奴と連むとか、俺も落ちたなぁ〜」 嫌そうに息を吐きながらボヤく圭に時雨は膝をついて縋り付き、震える声で訴えた。 「う、嘘だろ?……僕のこと本当に分からないの?」 「はぁ?」 「だって、僕達……」 「主人と下僕?」 「え……」 涙が浮かぶ瞳で圭を見上げると、男は時雨を蔑むように言い放った。 「だってお前、オメガだろ」

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