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第2話 情熱に絆されて
都内でも一、二を争うほどの有名進学校、せせらぎ高等学園へ特待生として入学した天海 時雨(あまみ しう)はこれから入学式が行われるホールの舞台袖にて緊張で固まっていた。
手汗にて湿った首席者が行う挨拶の手紙を何度も小声で音読する。
薄いフレームの眼鏡の奥は、静かに伏せる小豆色の瞳がほんのりと涙を浮かべていた。
瞳と同じ小豆色の髪をわしゃわしゃと掻き乱し、時雨は何度目かになる深呼吸を繰り返した。
それを見ていたせせらぎ高等学園の校長先生が朗らかに時雨へ声をかける。
「大丈夫、大丈夫!そんなに緊張しなくても、舞台に立つと意外とすらっと話せてあっという間に終わってるもんだよ」
「あ……、はい…」
引っ込み思案であまり人と接するのが得意ではない時雨は俯いて小声で返事をする。
「いや〜、しかし、あの天海家のご子息がここまで優秀とは知らなかったよ!お父様もお母様も喜んでいるんじゃないかい?」
「………」
「入学式の後、ご両親にご挨拶を……」
「す、すみません!父も母も今日は忙しくて……、その……今日は欠席なんです」
盛り上がる校長の声を勢いよく遮ると、時雨は徐々に声量を下げて心苦しそうに答えた。
それを見た校長は少し不憫そうに笑ったあと、時雨の小豆色の髪を優しく撫でた。
「そうか、そうか!だったら、わたしがしっかりと君の勇姿を見守るよ!」
少し背が低く、恰幅の良い校長の手は大きくてぷくぷくしている。
そんな校長の温かな心と掌の温度に時雨はグッと奥歯を噛み締めたあと、小さな声で呟いた。
「ありがとうございます………」
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