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24 キスの先

 いつまでもやめられないキス。  俺が唇を離すと、月森の唇が何度も追いかけてくる。柔らかくて温かい月森の唇に包まれて、もうずっとこのままキスに溺れていたい……と本気で思う。  でも、俺には明日はないかもしれないと思うと、気持ちが焦った。 「月……森……」 「……はい」  唇が離れた瞬間に呼びかけると、月森の唇が止まる。触れるか触れないかの距離で俺は続けた。 「……月森は、この先も……できる?」 「この先……?」 「キスの、先」 「……っ」  月森が顔を真っ赤にして、わかりやすく動揺する。   「そういうの……俺とできる?」 「えっ、と、でき……できますっ。……ていうか俺、告白した時にも言いました。キスもその先も……って」    その部分の記憶は戻っていない。そんな告白だったのか。聞きたかったな……。今の俺ならすぐにOKしたのに。  月森の頬に手を添えて、もう一度合わせるだけのキスをした。 「……じゃあ、シャワー入ってくるから」  俺がそう伝えると、赤面した月森が目を見開く。 「え……っ、あの、えっ? その先って……今すぐ、ですかっ?」 「今すぐは無理……?」 「え、いや……あの、俺、なんかもういっぱいいっぱいで……っ。だって俺、一度はっきり振られてるから……なんか……。今は俺、先輩とこうして一緒にいられるだけで幸せで……」  最後には消え入りそうな声になって、瞳いっぱいに涙を浮かべる。  そうだった。俺の曖昧な記憶なんかより、月森の振られた事実のほうがはるかに混乱が大きいだろう。  俺だってまだ信じられない。今の俺はこんな月森が好きなのに、前の俺はなぜ月森を振ったんだろう。本当に恋愛感情はなかったんだろうか。 「月森。俺、後悔したくないんだ」 「後……悔……?」 「月森を好きなこの気持ちが消えないうちに……月森の一番近くにいきたい。……感じたい。……ダメかな?」  月森がくしゃっと顔を崩して、目尻から涙が流れ落ちる。 「だ……ダメじゃ、ないです……っ。俺も……先輩の一番近くに……いきたい……っ」  そして、ポロポロと涙を流しながら俺をぎゅっと抱きしめた。 「でも、気持ちが消えるなんて……言わないでください……っ」 「……消えるかも……しれないからさ。ごめんね……」 「ゔ……嫌だ……先輩……」 「なに、月森。なんか俺の知ってる月森より可愛いんだけど」  俺より大きい身体で抱きつく月森が、なんだか今は小さく見える。可愛いくてたまらなくて口元が緩んだ。  ほんと、こんな感情的な月森は初めて見る。  いつもはもっとしっかりしていて頼りがいのある月森のこんな姿。心が通じ合ったあとの新しい月森の発見が嬉しい。俺を求めて涙する月森が死ぬほど可愛い。 「ごめんなさい……こんな泣いて。情けないですね、俺……」 「いや、全然。俺だって会社でボロ泣きしたじゃん。同じだよ」 「もう……ずっと怖くて。……先輩を失うのが……ずっと怖かったんです。今度は間違わないように、ちゃんと友達でいなきゃって……」  ああ、そうか。きっと前の俺がそうだったように、月森もずっと気を張っていたんだな。 「月森」 「……はい」 「月森は、どっちがいい?」 「……何がですか?」 「抱きたい? 抱かれたい?」  俺の質問に、月森がわかりやすく身体を硬直させたあと、痛いくらいにぎゅうっと抱きしめた。   「だ、抱きたいです」 「……うん、いいよ」 「先輩は……どっちがいいですか?」    ちゃんと俺の意見も聞いてくるところが、月森らしいなと顔がほころぶ。   「俺は……抱かれたい、かな?」 「……っ、ほんと?」 「ほんと。でも、前の俺はどっちかなって、ちょっと思ったんだよね」 「……俺が抱くって言いそう……ですね」 「やっぱり?」 「でも……」  月森が沈んだ声で、俺の首元に顔をうずめた。 「前の先輩は俺を好きじゃないから……そんな言葉は言いません……絶対」     それはどうかな。俺の予想では、前の俺も月森が好きだと思うんだけどな。   「じゃ……シャワー入ってくるね」 「……はい。待ってます」  シャワーを出たら月森と……。  そう思ったら、急に緊張してくる。  月森と視線を合わせて二人で照れ、照れ隠しにまたキスをした。  何度かついばむようにキスをして唇を離すと、また月森が俺の唇をふさぐ。 「……ん、ちょ……月森……シャワー……」 「もうちょっとだけ……」 「キリない……って、……んぅっ……」    キスを終わらせようとしてまた唇をふさがれ、目が合うとはにかむ月森を見て、もうこのままベッドに行こうか……なんて思い、心の中で苦笑した。    

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