2 / 14

第2話・おめでとう

 セイの誕生日前日。  ソーマはいつも以上に帰りが遅くなった。  セイには先に食事をして寝ていてくれと伝えたため、日付が跨ごうとしている時間に出来るだけ音を立てずに家に入る。  しかし、 「おかえり、ソーマ」  と、静かな声がソーマを迎えてくれた。  いつも通り腕を広げてくれる胸に、すぐに雪崩れ込みそうになる体をソーマはグッと抑える。  疲れ果てた体で抱きついたら、そのまま動けなくなりそうだった。  「ね、寝ててくれって言ったのに……っんぅ」  遠慮がちに紡いだ言葉を遮り抱きしめられた。驚いている間に、唇を塞がれる。  柔らかく啄まれると、条件反射で唇が開いていく。そこから温かい舌が侵入してきた。 「……、っはぅ」  舌は歯列をなぞって、更に中に侵入してくる。  顎裏を舐められれば、背筋がゾクっと跳ねた。  いつもの「おかえりなさい」の儀式とは違う口付けに不意をつかれ、疲労も相まってソーマの足が力を失っていく。  ソーマがセイの寝巻きを掴んで縋ると、支えるように強く腰を引き寄せられ唇はゆっくり離れた。  熱を持った翡翠のような瞳が、気遣わしげに覗き込んでくる。 「……、こんなに遅くなるのは流石に珍しいだろ? 疲れてるに決まってる恋人を放って寝たりしないさ。風呂はどうする? 飯は食ったか?」 (ほんと好き……結婚して……)  朦朧とした頭に浮かんだ内容は言葉になることはなく。 「か、軽く、食べたから……シャワーだけでも、んっ……浴びようかな……」  乱れた息をセイの胸で整えながら、何とかまともな言葉を絞り出す。  その間もセイの尻尾がソーマの尻尾の周辺を撫でているせいでもどかしく腰が揺れた。  返答を聞いたセイは、茶色の耳を撫でて微笑みかけてくる。 「ん、じゃあ着替えをとってくる」 「ま、待ってくれ!」  離れそうな体を、改めて背中に腕を巻き付けて引き留めた。  細く引き締まった体の動きを止めて、セイは目を瞬かせてソーマを見る。 「どうした?」 「えっと……」  ソーマは目線をうごかし、靴箱の上に置いてある円形の置き時計の針を見た。 (3……2……1……!)  3本の針が一斉に天辺を指すと共に、改めてセイを強く抱きしめる。  体重をかけるとセイの体がぐらついたが、気にせずに明るい笑顔を向けた。 「セイ、誕生日おめでとう!」 「……!」  目を大きく見開くセイの頬に、ソーマは柔らかくキスを落とす。  驚きながらも傾きかけた体勢を立て直したセイは、小さく呟いた。 「そういえばそうだったな……」 「忘れてたのかよ! こないだ言ったばっかなのに!」  ソーマは思わず、至近距離で大きな声を放った。  自分の誕生日を忘れることがあるだろうか。ソーマには信じられないことであった。  しかし本気で頭から抜け落ちていたらしいセイは、穏やかに苦笑してソーマの後頭部を撫でる。 「お前が遅くなるから、どうやって迎えるかだけ考えてたよ。マッサージでもするか、とか」  頭の中がソーマのことでいっぱいなのだと、いつも言っているセイの言葉は本当だったらしい。  ソーマは嬉しさと照れくささが混ざって、大げさに溜息をついた。

ともだちにシェアしよう!