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第8話・ワクワク感

「最初から最後まで全部美味しかった……」  ソーマは食後のコーヒーを飲みながら窓の外を見た。  二人が座るテーブルのすぐ隣にある、足元から天井まで届く大きな窓からは光り輝く夜景が見える。  犬の国で最も栄える街の中心にあるホテルの、最上階に位置するレストランだ。  高級感あふれる内装に少し緊張しながら入店したソーマだったが、乾杯のグラスを持って正面に座るセイがあまりにも場にふさわしく絵になっていて。  見惚れながら、 (いつかプロポーズするときは、こういうところでしよう)  などと妄想してグラスを合わせたところからは、趣向を凝らした料理が見た目も味も全て絶品だったことしか覚えていない。  耳を寝かせてリラックスしているソーマの前に、セイは一枚のカードを差し出す。  視線を落とすと、その青いカードにはこのホテルのロゴが入っている。 「今日、部屋をとってるんだ」 「ドラマの台詞みたいだな」  ベタな台詞まで様になる恋人に微笑んで見せながら、ソーマはカードに手を伸ばし受け取る。  ツルリとした表面を指先で撫で、それで口元を隠した。  この後の期待でニヤけてしまいそうだったからだ。 「一緒に泊まってくれるよな」 「もちろん」  形式的に投げられた問い掛けに、間髪入れず答える。  カードを顔から下ろし、ほんの少し残ったコーヒーを飲み干した。 「明日も午前だけだけど休みとってるんだ」 「じゃあ、俺も明日の午前は休みだ」  嬉しそうに顔を綻ばせるセイを見て、今週の仕事を頑張って片付けた甲斐があると感じる。  宿泊は予想していなかったが、もしかしたら朝は起きられなくなるかもしれないと考えての休みだった。  翌日のことは考えず、今日は好きなだけ応えたい。 「家に帰って着替えてても、午後には間に合うだろ」 「午前は部屋でゆっくりしよう。今着てるスーツでここから直接行けばいいさ。何のためにYシャツを二枚買ったと思ってるんだ」 「あー、なるほどそっちか」  Yシャツは必需品だから二枚買ったのかと思っていた。  必ず使う、の意味がソーマとセイで食い違っていたらしい。  しかしなんの問題もない。  明日はまた寝坊して、時間までセイと過ごして、思い出になるであろう新しいスーツで出勤しよう。  気持ちは逸るが、椅子の音を立てないように立ち上がる。  目線で追ってくるセイの隣へ移動すると、手を差し出した。 「この後のプレゼントは俺、な?」 「そんな可愛いことを言ってると、また公衆の面前でキスしたくなるだろ」  手を取って立ち上がったセイは、顎を上げて耳元に甘い声を直接響かせてくる。  耳の付け根に熱い息が掛かり、それだけで腰が抜けそうなくらいゾクゾクした。  繋いだ手に力を込め、ソーマは同じようにセイの耳に囁き掛ける。 「部屋で立てなくなるくらいしてくれ」 「言ったな? すぐ行こうか」  二人は改めて指を絡め合い、最短の道でレストランを後にした。  心が昂っているせいだろう。  予約した部屋が近付けば近づくほどに、ソーマの体から発情を示すフェロモンが仄かに滲み始める。  その香りは、パートナーの発情期に合わせてスイッチが入る猫獣人を刺激するのに充分だった。  異様に長く感じた部屋までの道のり。  ドアが閉まるのを待たずに、二人は抱きしめ合い唇を重ねた。  

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