9 / 35

6、夢想

 長いこと眠っていなかったせいか、今日はよく眠れた気がする。思えば10歳の時からあまり眠れていなかったんだ。だからだろう、こんなに温かくて気持ちの良い眠りは本当に久々に感じた。  それにとても良い夢を見ていた気がする。暗くて冷たい広い空間で、温かな光を見つけた。その光は俺を包み込んで、冷えた身体を温めてくれた。  身体中に血が巡るようで、久々に生きた心地がした。できることならこのままこの夢の中で過ごしたいと思った。  だけど無情にも身体は覚醒に、現実へと追いやろうとしてくるのだ。  目を閉じていればまた夢の中に入れるんじゃないかって、頑なに目を閉じていたけれど、それも母さんの声で開けざるを得なくなってしまった。 「陽介、身体の調子はどう?」 心配そうに訪ねる母さんをよそに、俺の身体は今までの不調なんてなかったくらい快調だった。 「…なんかすっごいスッキリしてる、なんで?」 「なんでって、晴陽くんが来てくれて、気絶した陽介を助けてくれたのよ」 「晴兄が?」 やっぱり訪ねてきたのは晴兄だったんだ。俺はあの恐怖の中、気絶していたのか。  なんとも恥ずかしいところを晴兄に見られた羞恥心で、顔が熱くなった。こんなふわふわした気持ちも、今はまだ元気だからなんだろう。これも晴兄のおかげだ。 ――昔から守られてばかりなんだな、俺。 俺は気持ちを浮き沈みさせながらも、晴兄が俺を助けてくれたことを嬉しく思った。それがたとえ義務感だったとしても、嬉しい。  そんな俺の様子を見た母さんが、嬉しそうに話し続けた。 「晴陽くんがね、学校来れそうだった来てほしいって。すぐに帰ってもいいから、1度職員室に顔出してほしいって言ってたわ」 「そっか…ねぇ、母さんは晴兄が遠くに行っちゃった理由知ってたの?」 「知ってた…陽介に言わなくてごめんね。でもどちらも悪くないから。こういうのは結局、手を出した人が悪いんだから」 「でも俺…晴兄に無理やりCommand(コマンド)使っちゃった…」 「それも晴陽くんが話してくれたわ。そうさせたのは自分だって彼も自分自身を責めてた」 「晴兄は悪くないのに…」 どうしてあの日、俺は晴兄のことも考えられなかったんだろうか。自分のことばかりで、晴兄に晴兄自身を責めさせてしまった。俺が悪いって、責めてくれても良かったのに、晴兄は優しすぎるよ。 「もう!自分を責めるのはやめなさい。陽介も晴陽くんも1回ちゃんと話し合うべきよ。相互理解がないと、何も前には進めないわ。晴陽くんは…ってこれは本人から聞いた方がいいか」 母さんは含みを持たせるような言い方をして、続きをやめてしまった。まだちゃんと話せるか分からないけれど、今度は晴兄を傷付けないように気をつけないと。  そう意気込んでいると、母さんが思い出したかのように胸の前で拳を作った。 「あと次Commandで無理やり言わせようとしたら、拳骨じゃ済まないから」 「は、はい…」 母さんは笑っていたけれど、目は完全に笑っていなかった。でもそれだけのことをしたのは自分だ。  それでも母さんはお互いの話を聞いて、2人で話せって言ってくれたんだ。それって晴兄も、俺と話したいって思ってるってことでいいんだよな。  今は体調も良いし、きっと晴兄に酷いことはしないはず。だから、今のうちに、しっかり話した方が俺と晴兄のためだ。  俺は自分の気持ちを落ち着けるように、ふぅと息を吐いた。それから母さんに告げた。 「母さん、明日学校行くよ」 「そうしなさい」 「母さん、ありがとう」 「親でもあるけれど、母さんはDom(ドム)の先輩でもあるんだからね。いつでも頼りなさい」 そういうってウインクをしながら母さんは俺の部屋を出て行った。  明日、きちんと話をするんだ。晴兄もそれを望んでいるはず。どうなるかは分からないけれど、もう1度昔みたいに仲良くできるならしたいと思う。できることならパートナーになりたい。  少し前までは、そんなこと考える余裕さえなかったのに、今ではまた図々しくも晴兄と一緒にいたいと思っている。 ――これも晴兄が俺を満たしてくれたから、なのかな。 そう思うと、望んでいいのか分からない夢がどんどんと湧き上がってきた。  俺は晴兄を守れる男になろう。加虐的な関係ではなくて、優しく守れるような男になるんだ。それを証明できたら、きっと晴兄も安心して俺の隣にいてくれるはずだ。  俺はこの時、なんの根拠もない自分の妄想をただ一心に信じた。

ともだちにシェアしよう!