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6、夢想
長いこと眠っていなかったせいか、今日はよく眠れた気がする。思えば10歳の時からあまり眠れていなかったんだ。だからだろう、こんなに温かくて気持ちの良い眠りは本当に久々に感じた。
それにとても良い夢を見ていた気がする。暗くて冷たい広い空間で、温かな光を見つけた。その光は俺を包み込んで、冷えた身体を温めてくれた。
身体中に血が巡るようで、久々に生きた心地がした。できることならこのままこの夢の中で過ごしたいと思った。
だけど無情にも身体は覚醒に、現実へと追いやろうとしてくるのだ。
目を閉じていればまた夢の中に入れるんじゃないかって、頑なに目を閉じていたけれど、それも母さんの声で開けざるを得なくなってしまった。
「陽介、身体の調子はどう?」
心配そうに訪ねる母さんをよそに、俺の身体は今までの不調なんてなかったくらい快調だった。
「…なんかすっごいスッキリしてる、なんで?」
「なんでって、晴陽くんが来てくれて、気絶した陽介を助けてくれたのよ」
「晴兄が?」
やっぱり訪ねてきたのは晴兄だったんだ。俺はあの恐怖の中、気絶していたのか。
なんとも恥ずかしいところを晴兄に見られた羞恥心で、顔が熱くなった。こんなふわふわした気持ちも、今はまだ元気だからなんだろう。これも晴兄のおかげだ。
――昔から守られてばかりなんだな、俺。
俺は気持ちを浮き沈みさせながらも、晴兄が俺を助けてくれたことを嬉しく思った。それがたとえ義務感だったとしても、嬉しい。
そんな俺の様子を見た母さんが、嬉しそうに話し続けた。
「晴陽くんがね、学校来れそうだった来てほしいって。すぐに帰ってもいいから、1度職員室に顔出してほしいって言ってたわ」
「そっか…ねぇ、母さんは晴兄が遠くに行っちゃった理由知ってたの?」
「知ってた…陽介に言わなくてごめんね。でもどちらも悪くないから。こういうのは結局、手を出した人が悪いんだから」
「でも俺…晴兄に無理やりCommand 使っちゃった…」
「それも晴陽くんが話してくれたわ。そうさせたのは自分だって彼も自分自身を責めてた」
「晴兄は悪くないのに…」
どうしてあの日、俺は晴兄のことも考えられなかったんだろうか。自分のことばかりで、晴兄に晴兄自身を責めさせてしまった。俺が悪いって、責めてくれても良かったのに、晴兄は優しすぎるよ。
「もう!自分を責めるのはやめなさい。陽介も晴陽くんも1回ちゃんと話し合うべきよ。相互理解がないと、何も前には進めないわ。晴陽くんは…ってこれは本人から聞いた方がいいか」
母さんは含みを持たせるような言い方をして、続きをやめてしまった。まだちゃんと話せるか分からないけれど、今度は晴兄を傷付けないように気をつけないと。
そう意気込んでいると、母さんが思い出したかのように胸の前で拳を作った。
「あと次Commandで無理やり言わせようとしたら、拳骨じゃ済まないから」
「は、はい…」
母さんは笑っていたけれど、目は完全に笑っていなかった。でもそれだけのことをしたのは自分だ。
それでも母さんはお互いの話を聞いて、2人で話せって言ってくれたんだ。それって晴兄も、俺と話したいって思ってるってことでいいんだよな。
今は体調も良いし、きっと晴兄に酷いことはしないはず。だから、今のうちに、しっかり話した方が俺と晴兄のためだ。
俺は自分の気持ちを落ち着けるように、ふぅと息を吐いた。それから母さんに告げた。
「母さん、明日学校行くよ」
「そうしなさい」
「母さん、ありがとう」
「親でもあるけれど、母さんはDom の先輩でもあるんだからね。いつでも頼りなさい」
そういうってウインクをしながら母さんは俺の部屋を出て行った。
明日、きちんと話をするんだ。晴兄もそれを望んでいるはず。どうなるかは分からないけれど、もう1度昔みたいに仲良くできるならしたいと思う。できることならパートナーになりたい。
少し前までは、そんなこと考える余裕さえなかったのに、今ではまた図々しくも晴兄と一緒にいたいと思っている。
――これも晴兄が俺を満たしてくれたから、なのかな。
そう思うと、望んでいいのか分からない夢がどんどんと湧き上がってきた。
俺は晴兄を守れる男になろう。加虐的な関係ではなくて、優しく守れるような男になるんだ。それを証明できたら、きっと晴兄も安心して俺の隣にいてくれるはずだ。
俺はこの時、なんの根拠もない自分の妄想をただ一心に信じた。
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