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15、それぞれのお説教タイム
俺は今、リビングに正座をさせられ、母さんから拳骨をもらっていた。
どうしてこんなに母さんが怒っているかというと、顔を洗いに行っただけなのに、なかなか帰ってこなかったこともあるけど、それよりも首筋の無数のキスマークに原因があった。
「今何時だか分かってるの?」
「じ…10時です…」
「何時間顔洗いに行ってるのよ!」
「ご、ごめんなさい」
「それに晴陽くんの首筋はどう説明するつもり?」
「も…盛り上がって?」
俺はヘラっと冗談ぽく笑って母さんを見上げた。だけど母さんは鋭い目付きで、無言のまま俺を見下ろしていた。
そんなピリピリした空気の俺と母さんを余所に、晴兄と父さんは一足先に夕飯を食べていた。一体何を話しているのだろうか、2人は笑い合っていた。
陽介が怒られているのに、俺が先に夕飯をいただいていていいのだろうか。箸をつけるか迷っていると、陽介の父である聖司 さんが話しかけてきた。
「高校生だった晴陽くんがもう飲める年か、感慨深いね」
「あはは、もう8年も経ちましたからね」
「そっか、もう8年か…大きくなったね」
「あ、ありがとうございます…」
聖司さんの話に生返事をしながら、俺は陽介と陽さんの方へ目線をやった。説教タイムはまだまだ終わりそうになさそうだ。
どうにかして助けてあげたいけど、入るに入れなかった。
「よーうーすーけー、あんた聞いてるの?」
ぼーっと早く説教が終わらないかと待っていると、今日1番の母さんの怒鳴り声が耳に響いた。
「聞いてるよ…俺が悪かったよ…」
「今は家だからいいものの、学校でこんなことがあると思うとゾッとするわ」
「晴兄がそんなことす――」
「あんたのこと言ってんでしょ!ぜ・ん・か!あるの忘れてないでしょうね」
「わ、忘れてません!ごめんなさい!」
俺は必死に頭を下げた。久々に母さんに怒られたけど、母さんの説教ってこんなに長かっただろうか。
晴兄のところに行けるのはまだまだ先のようだ。
聖司さんと話してたら、いつの間にか陽介は土下座させられていた。
ギョッとして席を立つと、聖司さんが俺の手を握って座るよう言ってきた。
「まぁまぁ落ち着いて。陽 さんは君たちを心配して言ってるだけだから」
「でも、陽介は悪くなくて、本当にちょっと話し込んじゃっただけで…」
「あはは、それじゃ首の痕の説明がつかないよ」
そう笑いながら、聖司さんは自分の首元を指していた。その仕草に、俺は自分の首に陽介の痕があることを思い出し、俺は隠すように手で覆った。
「えっと…す、すみません…」
「晴陽くんが謝ることじゃないよ。でも考えてみて、例えばここが学校だったら?」
そう言われて考えてみると、背筋が寒くなった。夢中になって授業に出ないのと一緒だ。教師が無断で授業をサボるとか職務怠慢だし、陽介に授業をサボらせて、ただでさえ陽介は遅れてるのに。
それに何かの拍子にバレる可能性だってある。そしたら陽介は周りからどんな目で見られてしまうのだろうか。
「脅してごめんね。でも僕たちSub は命令されたら逆らえないからね。陽介には悪いけど、今はしっかり反省してもらわないと」
「俺も気を付けます…」
「そうだね。あの図体で陽介はまだ未成年だから、見つからないようにも気をつけてね」
「はい、ありがとうございます。あ、お酒注ぎますよ」
「あはは、晴陽くんに注いでもらえるなんて嬉しいよ」
俺は聖司さんの空いたグラスにお酒を注いだ。聖司さんも俺のグラスに注いでくれて、それが嬉しくて、俺はついつい飲み過ぎてしまった。
陽さんのご飯は美味しいし、聖司さんは優しい。またこの温かい場所に戻ってこられたことが嬉しかった。
父さんと晴兄の楽しそうな笑い声が聞こえるのに、ようやく母さんの説教は終わった。
「いい、分かった?人それぞれだけど、私たちDom の言ったことにSubは逆らえないと思って行動しなさい。それから――」
「場所を考える。学校では絶対にしない。高校卒業まで性行為禁止。何回も言われたから分かってるって」
「あと、晴陽くんのニオイに気を付けなさい。強く感じることがないように、小まめに発散させないと、あんたが呑まれるわよ」
「言われなくても分かってるよ…」
晴兄のニオイのこと、やっぱり母さんも気付いていたんだ。て、そりゃそうか、母さんもDomだし、そりゃ感じるよな。俺だけが嗅ぎ取れる匂いだったらいいのにって思うけど、そうはいかないか。
俺はなんとも言えない複雑な気持ちを抱えて、母さんと夕飯の席についた。
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