22 / 35

17、お仕置きってなんですか 後編

「いっ…はぁ…はちぃ…」 8回叩いたところで、晴兄は力尽きたように倒れ込んでしまった。それでもお尻は突き上げているところを見ると、その従順さに愛おしさを感じてくる。でも顔が見えないのは少し寂しい。  なので俺は晴兄の顎を持ち、無理やり顔を自分の方に向けさせた。 「Look(俺を見て)。あと2回頑張ったら『ご褒美』が待ってるよ」 「あっ。ご…ほう…び…」 俺は晴兄の耳元で『ご褒美』と囁いた。瞬間、晴兄の身体からさらに強烈な甘い匂いが漂ってきた。  その匂いを嗅いだ俺は、すぐに自分の手を噛み、痛みで正気を保った。フーフーとまるで獣のような自分の息遣いには、流石に嫌気が差した。それを自分で認識できることもだ。  そんな俺の葛藤とは裏腹に、晴兄はずっとお尻を叩かれるのを待っていた。 ――パシンッ 「ひあっ…きゅっ…きゅうぅ」 ――パシンッ 「んあ゛…じゅう…はぁ…はぁ…」 10回目を終えると、晴兄はまた額を床に擦り付けるように、上半身を倒してしまった。それでも赤くなったお尻を必死に突き上げている。 「はっ…晴兄のお尻、真っ赤」 「が、がんばった…よ…」 「Good Boy(よくできました)」 俺は晴兄の頭を撫でながら、赤くなったお尻にキスを落とした。  何回も労わるようにお尻にキスをすると、晴兄は甘い声を出しながら身体を震わせた。  まさかと思って、突き上げられたお尻の下を見ると、白濁した液体が広がっていた。  それを見た瞬間、母さんに言われたことを思い出し、俺はすぐに冷静になれた。これはアウトなのかセーフなのか。それで頭がいっぱいになった。 「晴兄、痛いお尻にキスされてイっちゃったの?」 「んっ…きもちよくて…」 「へぇ…叩かれて気持ち良くなっちゃったんだ…」 「ご、ごめん…なさい…きらい、ならないで…」 「どうしてそんな…って今は違う…」 俺は晴兄を抱き上げてベッドに運んだ。仰向けに寝かせると、腫れたお尻が痛くて気持ち良いのか、小さく呻きながらも、恍惚とした表情を浮かべていた。 「あぁ…」 「お尻、シーツで擦れて痛い?それとも気持ち良い?」 「きもちいい…」 そう言いながら、晴兄は腰をもじもじさせていた。『お仕置き』なのに晴兄にとっては『ご褒美』になった感が否めない。 「晴兄、一応『お仕置き』だったんだけど…」 「まだ、『お仕置き』する?」 晴兄は瞳を潤ませながら、俺を見上げてきた。期待に満ちたその目は、完全にとろけていて、Sub Space(サブスペース)に入っているのだと分かった。 「いや…今からは『ご褒美』…かな?」 「ごほうびも…うれしい…」 晴兄はさらにふわっと笑って嬉しそうに身体から力を抜いていった。俺はそれを見て、目一杯甘やかした。 「Good Boy(いい子だね)…晴兄。『お仕置き』よく耐えたね」 「ん…ちょっといたかったけど…がんばったよ…」 晴兄はふにゃふにゃの笑顔で、俺の手をとった。その手を自分の頭に持っていき、頭を撫でるよう求めてきた。  俺は求められるがまま、晴兄の頭を撫でて、ついでにぷにぷにの晴兄の頬も撫で回した。頬を撫でると嬉しそうに自分からすり寄ってきた。 「あたま…ふわふわ…する」 「そうだね。いっぱいふわふわして、そのまま夢の中に連れていってあげる」 俺は晴兄の上に覆い被さり、優しく抱きしめた。晴兄も俺の背中に手を回して俺を抱きしめてくれた。 「よ…すけ…ごほうびは…かんで…」 「噛むって…晴兄、それは『ご褒美』じゃないから」 「やぁ…かんで…あとのこして」 晴兄は駄々をこねるように俺にしがみつき、「いやいや」と言い始めてしまった。そうなるとまた晴兄の身体から甘い香りが香ってくる。 「人の気も知らないで、そんな煽って…後悔しないでよね」 俺がどれだけ頑張って抑えても、晴兄は欲求を満たそうと、フェロモンが強くなっていく。何度も何度も耐えたそれに、俺はもう抗う術を持っていなかった。  俺はずっと美味しそうに見ていた晴兄の白い首筋に、思い切り噛みついた。 「イッ…あぁっ…き…きもちい…よ…」 噛みついた瞬間、晴兄は身体を震わせて、晴兄の中の熱を吐き出していた。  咄嗟に首元から口を離して晴兄を見ると、涙を流して喜んでいた。  その表情に俺は思わず目を奪われた。目が離せなくなった。  目が離せずに見つめていると、晴兄がその視線に気付き、俺を見つめ返してきた。  それから少しの間、うっとりと見つめてくると、晴兄は満足気に気絶するかのように眠ってしまった。 「晴兄は俺をどうしたいの…」 俺は晴兄がどうして「噛んで」なんて言ったのか、分からなかった。それが晴兄の中にある欲求ってことであっているのだろうか。  起きた時、この噛み痕を見て、晴兄はまた罪悪感に苛まれないだろうか。俺にこんなことをさせてしまったと、自分を責めてしまわないだろうか。冷静になって、俺が怖くなったりしないだろうか。離れていったりしないだろうか。  そればかりが気になって仕方がなかった。  俺はそんな不安を断ち切るように晴兄を抱きしめ続けた。 「何をされてもいいって言ったの、晴兄なんだからね…」 俺はゆっくりと晴兄をベッドに寝かせ、そっと口付けをした。それからベタベタの下半身を軽くティッシュで拭いて、俺はタオルを取りに1階に降りた。  その足取りは少しだけ重く、リビングまでの道のりはいつもより長く感じた。

ともだちにシェアしよう!