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20、幸せの匂い 前編

 身体が重くて動かせない…胸も、圧迫されていて息苦しい…これってもしかして、金縛り!?幽霊が俺の身体の上に乗ってるの!?  そう思った俺は、驚きのあまり勢いよく目を開けた。だけど、思っていたような心霊現象は起こっていなかった。むしろ金縛りの原因は、幸せの重みだった。 「そっか…あのあとちょっとだけここで寝ようってことになったんだっけ」 俺はそう呟きながら、すやすやと俺の上で眠る晴兄の頭を撫でた。何度触っても触り心地の良いサラサラの髪。昨日2人ともお風呂に入ってないのに、俺とは違って甘くて優しいお日様の香りが晴兄から漂ってくる。  同じ男、というか人間とは思えないほど、澄んだ香りだ。一体どうなんてるんだろうか。  俺は好奇心に任せて、晴兄の匂いを嗅いだ。  でもそんな変態的な行為、こんな誰でも来られるようなところでするんじゃなかったと、この後すぐに後悔することになる。 「ほんと、天日干しした布団みたいな、良い匂いなんだよな…どうなってんだろ…しかもすっごく癒される…」 「陽介…流石にここではやめなさい…」 夢中で晴兄の頭を嗅いでいると、母さんの引いたような声が聞こえた。その声に咄嗟に顔を上げると、呆れたような顔で母さんが俺たちを覗き込んでいた。 「あ…母さん…」 「うまくいってるなら良いんだけどね。流石に場所は選びなさい」 「あっ…ちがっ…これは!」 「んん…」 「ほら、そんな大きな声出したら晴陽くん起きちゃうわよ」 母さんは俺にため息を吐き、朝食の支度に取り掛かってしまった。  親にこんな姿見られるなんて、まさかの出来事に俺は爆発するかと思うくらい顔を熱くさせる。  俺はそれを誤魔化すかのように、誰に言うでもなく、ただブツブツと呟いて発散させることにした。 「パートナーに匂いくらい嗅いだっていいだろ。こんな近くにあるのに嗅がない方がおかしいって、しかもすごくいい匂いなんだよ、甘くて癒されて、もう美味しそうなんだってば、そんなの耐えられないって…」 「何が耐えられないって?」 「は、晴兄…」 晴兄は眠たい目を擦りながら俺に訊ねてきた。そりゃこんな近くでブツブツとうるさかったら誰でも起きるだろう。なかなか起きられない晴兄だって例外ではなかった。  さてここでの問題は、晴兄がどこから俺の呟きを聞いていたかってことだ。  どうして聞かれたくない時に限って、晴兄は聞いてしまっているのだろうか。俺のタイミングの悪さは昨日今日と最悪だ。 「晴兄、いつから起きてたの?」 「いつってついさっきだけど」 「俺の話聞いてた?」 「いや、耐えられないって呟いてたところだけ」 「そっか…」 どうやら晴兄は最後だけ聞こえていたらしい。俺は『変態』と思われずに済んだことにホッとした。 「なぁ、何が耐えられないんだ?」 「え、あー…トイレ行きたいな…って…」 「それ早く言えよ!今退くから…なんてな」 「えぇっ!?」 晴兄は俺の上から退く素振りをしたと思ったら、俺に頭突きをする勢いで頭を俺の胸に押し付けてきた。  一体何が起きているのか分からず、その晴兄の行動にただただ驚いて硬直することしかできなかった。 「美味しそうって俺のこと食べたいってこと?陽介のえっち」 「えっ…ち、違うってば!ていうか聞いてたんじゃん」 「あはは、流石にあんなに触られて、嗅がれて、耳元で話されたら起きるって」 「もうサイアク…」 俺はため息を吐いて、晴兄から目を離した。ようやく治ってきた顔の熱はまた熱く火照り出していた。そんな真っ赤であろう顔を見られたくなくて、俺は両手で自分の顔を覆って、恥ずかしさに悶えた。  しかも今、俺の下半身は色々なことが重なりすぎて爆発寸前になっていた。それが追い討ちのように、俺の顔を熱くさせている。  晴兄は気付いてないはず、そう思い込みながら、心の中で「静まれ」と何度も叫んだ。じゃないと気付かれるのは時間の問題だった。  運良く俺の下半身が晴兄に触れてないだけで、あと少しでも登ってこられたら晴兄の脚に当たってしまう。  俺はもう気が気じゃなかった。いつ気付かれてしまうのか、それよりも先に晴兄から離れられるのか。  それでも自分から離れるという選択肢が浮かばないくらいには、俺はこの状況を心の奥底では楽しんでいて、幸せに感じていた。  でもそんな俺の思惑を見透かしたように、晴兄は俺の下半身に自分の太腿を擦り付けてきた。 「なっ!?なにし…んぐッ!」 咄嗟に離そうと晴兄を掴もうとするも、それよりも先に口を塞がれ、晴兄は「シー」っと俺に静かにするよう言ってきた。口元に人差し指を当てて言う仕草が、あまりにも可愛くて、俺はそのまま固まってしまった。  そうして静かになった俺の口から晴兄は手を離して、楽しそうに俺の耳元で囁いてきた。 「陽さんにバレるだろ」 「まさかとは思うけど…ここでシないよね?」 「そのまさか…陽介を気持ち良くできたらいっぱい褒めろよ」 晴兄は俺の頬にキスをして、ソファに手をついて身体を少し浮かせ、俺の下着の中に手を入れてきた。そして晴兄の白くて柔らかい手が俺のものをそっと包み込む。  たったそれだけなのに、ずっと思い描いていた俺の妄想が現実になろうとしているせいか、ものすごく興奮した。  そんな息を荒くしている俺を見つめて、晴兄はゆっくりと下着の中で手を上下させた。  もどかしいその手の動きに正直物足りなさは感じているけど、晴兄が俺のものを握りしめていると言うだけで、先端からは液体が溢れ出ていた。

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