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1.青空と"さよなら"と(1)

 夏休みが終わっても、当然のように居座る暑さが、九月の終わりくらいまで続いていた。  それでも。  青く澄み切った空が、少し秋を予感させ始めた頃。  要の母親が死んだ。 『たぶん、私、もうそんなに時間がないと思うの』  前に病院で言っていた言葉を思い出す。まさか本当にそうなるなんて思わなかった。たんに、少し気弱になってただけじゃないかと思ってた。体調が急変したと、連絡があったのは学校の授業中のようだった。  俺のところに、その情報が届いたのは、昼休み。朝倉と、教室でコンビニで買ってきていたパンを食い始めようとした時、ヤスくんが飛び込んできた。 「こ、鴻上先輩っ!か、要が、要がっ」 「……落ち着こうか、ヤスくん」  顔を真っ青にしながら、何か言おうとしてるのに、言葉が出てきてくれないようで。『要』の名前が出てきた時点で、俺だって冷静にはなれないけれど、落ち着いてくれなきゃ、話もできない。 「す、すみませんっ。要のお母さんの容体が急変したって、連絡があって、もう、あいつは病院に向かったんですけど、一応、先輩にも伝えたほうがいいかもって思って」  ヤスくんの話の途中から、荷物を鞄に詰め込み始めた。 「潤、悪い。俺、早退するわ。先生には、うまいこと言っといて。ヤスくん、サンキュ」  二人からの返事を待たずに、俺は慌ただしく学校を飛び出した。駅までは、信号につかまることもなく、猛ダッシュで走り抜け、タイミングよく来た電車に乗り込んだ。息をきらしながら、鞄の中に入れておいたスマホをとりだしたが、要からの連絡はなし。  俺に連絡する余裕もないか。  それに気づくことで、逆に、俺の方が冷静になってくる。 『これから病院に向かうから』  そうメッセージを送ってから、目を閉じて、大きくため息をつく。  病院に着くと、前に行った大部屋にはいなくて、慌てて看護師を捕まえた。 「獅子倉さんなら、東棟の個室に移ってるわよ」  俺は急いで、病室に向かった。いつの間に、部屋が変わっていたのか。そんな話、要からは聞いていなくて、なんで教えてくれなかったのか、不安になった。  東棟の病室のあるフロアは、さっきまでいた大部屋のところと違って、気持ち悪いくらい静かだった。教えられた病室をのぞくと、何人かの看護師と担当医が、おばさんのそばで機器を見ながら、様子を伺っている。  それを呆然と見ている要。  たった一人で、椅子に座っている姿が、痛々しくて。 「要」  声をかけずにはいられなかった。

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