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1.青空と"さよなら"と(2)
「柊翔……」
力のない声で、俺の名前を呼ぶ。俺はただ、頷くだけで、廊下に出されていた椅子を持って、要の隣に座った。要が、俺のシャツの裾を掴む。
「おじさんは?」
「……連絡つかない」
「は?」
「ここ2、3日、家に帰ってこないんだ……何も言ってないけど、出張なのかと思って……一応、メールも電話もしたけど、返事来ない……」
そう言って、涙をポロポロと流してる。
「ちょっと、待ってろよ」
要の肩に手をやると、俺は自分のスマホを取り出して、通話可能なところを探した。
「あ、親父?今、いい?」
おじさんは、俺の親父と同じ会社。部署は違うはずだけれど、親父に聞けばわかるはず。
「要のお母さん、やばそうなんだ。要の親父さんに、全然連絡つかないらしくて」
電話越しで、だいぶ忙しそうなのは伝わってくるけれど、それどころじゃないのは、親父だってわかってる。
「……え?何それ」
要の親父は、1週間の有給休暇をとってる、だと?
「要、何も聞いてないみたいだけど」
『!?』
「とりあえず、親父のほうからも連絡とってみてよ。俺、母さんに連絡する」
あの、バカオヤジ、何やってんだよ。頭に血がのぼってたけれど、場所を考えて、思い切り壁を叩くだけにした。
思い浮かぶのは、あの夏の花火大会の帰り道。おじさんと、誰かはわからない若そうな女。二人が楽し気に歩いている姿は、見間違いじゃなかったんじゃないか。今更ながらに、あの時、捕まえて確認すればよかったんじゃないか、と後悔している。
俺は家に電話をかけた。
「あ、母さん。急いで、病院に来て。要のお母さん、やばそう」
それだけ言うと、俺はすぐに要の元に向かった。おじさんが、有給休暇使ってる話は、絶対に言えない。
病室は、先ほどと変わらない。ただ、おばさんが、眠りにつくのを見守るしかできない。真っ赤な目をした要が、じっとおばさんを見つめてる。
おばさんは、浅い呼吸を何度も何度も繰り返していたけれど、段々と、そのペースも遅くなり……。
甲高い機械音が響く中、おばさんは、遠くに旅立ってしまった。
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