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1.青空と"さよなら"と(3)
ただポロポロと涙を流していた要が、おばさんが旅立ったと同時に、身体が壊れるんじゃないかというくらい声をあげて号泣した。
そんな要に、俺ができるのは、ただ抱きしめてやるだけ。それは、本当はおじさんがやるべきことなんじゃないか。おばさんの側にいるべきなんじゃないか。
俺は、怒りでおかしくなりそうだった。
要がようやく落ち着いた頃、うちの母親が到着した。おばさんと、うち母親は社宅に入居した当時から仲良くしていただけに、病室に着いたとたん、要に負けないくらいに、号泣した。
要は、そんな母親を見て、逆に涙がひっこんだらしく、母親の背中を優しくなでていた。しばらくすると、今度は親父が病室に現れた。
「親父……」
俺は、親父の腕をとると、病室から出てほど近いところにある休憩室に向かった。
「連絡とれた?」
「ああ。会社の携帯のほうは、電源入れてたみたいでな」
なんだよ、それ。要には、そっちは教えていなかったってこと?仕事の電話には出られて、家族からの連絡は受け付けないってか?
「で、今どこ?」
「……北海道だと」
「……はぁ!?」
「今から戻っても、明日になるとか」
苦々しく言う親父。普通なら、飛行機に乗れば帰って来れるような時間だというのに、明日とか、何呑気なことを言ってるんだ?と思ったと同時に、どんな辺境に行ってるんだよっ、と怒りが湧き上がる。
「なんだよ、それっ!」
「それは、俺の方が言いたいっ」
声を殺しながら、壁を思い切り殴りつけた。
……やっぱ、俺たちは親子だな、と思った。
「要くんは?」
「今、母さんが相手してる」
「そうか……獅子倉が、こんなヤツだとは思わなかったよ」
「……その北海道って、誰と一緒に行ってるの」
「え?」
「だって有給なんだろ。そんなとこ、一人で行くわけないじゃん。息子置いてなんてさ。」
「……」
苦虫を噛み潰したような顔の親父。
「俺、前に見かけた気がするんだよね。おじさんの相手」
夏の花火大会の話をした。
「……」
「マジで、ありえねぇと思うんだけど」
奥さんが入院してるってのに。
「親父、俺、おじさん来たら殴ってもいい?」
「やめとけ」
「なんでっ」
「お前が殴るような価値などない」
親父の目が、とても冷ややかなものになった。今までみたことがないくらいに。いや、要が亮平に襲われた時、あの時の対応をしている時も、同じような顔をしていたような気がする。
「お前は、要くんのそばにいてあげなさい」
「ああ」
そう言うと、俺を病室のほうに押しやると、そのまま休憩室で、どこかに電話をかけはじめた。
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