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1.青空と"さよなら"と(4)

* * *  母親の葬儀が終わるころには、すっかり高校では文化祭の準備モードになっていた。親父が思いのほか、使い物にならなくて、柊翔の親父さんに色々と世話になってしまって、申し訳なかった。"気にしなくていい"と言われたけど、やっぱり、そういうわけにもいかず。親父から金を出させて、菓子折り持って挨拶に行った。本来は、親父がやるべきだろうと思うけど、母親が死んだことが、こんなにショックになったとは。 「……要くんは、大丈夫かい?」  日曜日の午後、俺は一人で柊翔の家に来ていた。柊翔の親父さんが心配そうに俺に声をかけてくれる。 「はい。親父が、あんなんなんで、俺がしっかりしないと、と思ったら、なんとかなりました。」 「そうか……」 「要くん、今日はお父さんは?」  おばさんが、コーヒーと俺が持ってきたクッキーを出しながら、聞いてきた。 「……あの家にいられないみたいで……今日もどこかに出かけてるみたいです……」  俺にしてみれば、今までの生活と変わりはない。苦笑いしながら、クッキーをつまんだ。  おじさんとおばさんは、そんな俺を気の毒そうに見つめてる。そんな顔をさせてしまうことに、俺の方が少しばかり申し訳ない気持ちになる。 「要」  自分の部屋から出てきた柊翔が、チョイチョイと手招きをする。 「はい」  おじさんたちに、"ご馳走様でした"と言って、柊翔のそばに行く。柊翔は俺の腕をとると、自分の部屋に引っ張り込んだ。 「な、なんですかっ!?」  ドアを閉めたと同時に、驚いて声をあげた俺のことをギュッと抱きしめた。 「し、柊翔?」 「……」 「どうかしましたか?」 「……お前、我慢してないか?」  柊翔の口から出た言葉が、ジワリと俺の身体に浸みこんでくる。 「……はぁ」 大きくため息をつきながら、柊翔の肩に頭をのせる。 「……我慢……してますかね」 「……してるだろ」  俺の頭を軽くポンポンと叩く。 「俺の前では、無理すんなよ」  肯定のつもりで、コクリと頭を動かす。 「……柊翔の匂い……」 「ん?いい匂い?」 「……うん」  柊翔のことを抱きしめかえす。 「俺……要の家から学校通おうか?」 「な、何言ってるんですかっ!?」  思わず、顔をあげて柊翔の顔を見つめた。 「だって、親父さん、平日だってほとんどいないんだろ?」 「そ、そうだけど。今までと変わらないし……」 「おばさんが、戻ってくると思って家にいるのと、親父さんと二人だけ、と思っているのとでは、全然違うだろ。それに、あんまり、帰ってこないんだろ?親父さん」  柊翔の親父さんや、おばさんには言ってないのに、柊翔が知ってることに、驚いた。 「うちにおいで、と言えればいいんだけど、うちは狭いからな。あー、それとも、俺の部屋、二人で使う?」  ニヤニヤ笑いながら、俺の額にキスを落とす。 「ば、バカ言わないでくださいっ!柊翔は受験生なんですからっ」 「でも、要が一緒にいてくれれば、俺、頑張れるよ?」  ギュウっと抱きしめられて、苦しくなるけど、この苦しさは、幸せと紙一重。 「……ありがとございます。そう言ってもらえるだけで……俺、大丈夫です。」  うん、柊翔からパワーもらってる。顔を上げると、目の前には優しく微笑む柊翔。 「そっか。でも、しんどくなったら、ちゃんと甘えろよ?」 「……はい」  ゆっくりと唇が重なる……はずだった。 「柊翔~、要く~ん、夕飯、何食べたい~?」  おばさんの大きな声がドアの向こうから聞こえてきたから、俺たちは目を見合わせて、クスッと笑いあうと、チュッと音がしそうな軽いキスをした。

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