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第6話

「そこのきみ。落としたぞ」 え、と3人同じ方向に顔を向ける。 「違ったか?」 そこには、入学式以来一度も見かけていなかった生徒会長の柊浩介(ひいらぎこうすけ)が立っていた。 少し赤混じりの茶色い髪を片方耳にかける仕草が、やけに大人っぽくて周囲をザワつかせる。 当人はさして気にしないのか、はたまた慣れたことなのか分からないが、右手に白いハンカチを持って理久の方へ差し出していた。 「あっ、これ俺のです。すみません」 「ならいい。邪魔してすまない」 「そんなっ⋯⋯ありがとうございます」 「礼はいい。それじゃ「ここにいたか」、秀」 また、辺りの空気が揺れる。 どこか急ぎ足でこちらへ向かってくる御子柴先輩は、視界の隅に僕を捕えると軽く片手を上げて挨拶をしてくれた。 だから僕もそれに会釈で答えながら、事の成り行きを見守ることにする。 「悪いが急ぎの要件だ。風紀室に行くぞ」 「まさか、あいつらか」 「あぁ。残念ながら、お前の忠告はなかったことになっているらしい。俺も呼ばれた」 「そうか。なら情けはいらないな」 「理事長も先に向かっている」 「他の生徒会役員に各寮長への伝言と掃除の手配も任せておけ」 「もう済んだ」 「フッ、仕事が早いな。流石だ秀」 「ふざけてないで早く行くぞ。悪いなお前達。話の途中だろうが、優先事項ができた。すまないが、こいつと話したければ生徒会室に来るといい。仕事の虫だからいつでもいる」 「おいおい。俺は一応先輩なんだが?」 「じゃあまた」 「聞けよ、ったく。⋯⋯じゃあな、1年生」 「っ!」 噂には聞いていたけど。 生徒会と風紀委員は常に何かしらで動いていて、授業や行事以外で生徒の前に姿を現す機会は極端に少ないので、こうしてたまに見かけることがあると生徒はみんないい意味で緊張が走るのだとか何とか。 周りの雰囲気を見て、それがあながち嘘ではないことを知った。 それと、生徒会長のあの笑顔は、どちらかというと支配されそうで怖い笑顔だということも。

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