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16 身体を重ねて君を知る2

 あばらの浮いた丸みのない身体を撫でているのに、悠人の身体だと思うだけで脳が焼き切れるほどに興奮していく。どこもかしこも滑らかなのに、胸に集中して刻まれた手術痕の凹凸だけが僅かに指先に引っかかる。それすらも愛おしくてゆっくりと指で辿れば、また悠人から鼻を鳴らしたような吐息を漏らす。 「ぁっ」  甘い吐息がまた漏れ、中西を煽っていく。  そんな可愛い反応をされたら本当に止まらなくなってしまう。  そうでなくても悠人の舌は甘くて貪らずにはいられない。小説の中で「キス」という言葉で終わる行為がこんなにも興奮させ抑えが効かなくなるものだと思いもしなかった。  健全な男子高校生だから、エッチなビデオを見たこともあるし、そういう漫画を読んだこともある。卑猥な印象しか受けなかったけれど、実際好きな人とすれば、こんなにも甘美な行為なのかと抑えられなくなった。  もっともっと悠人を味わい尽くしたくて、がむしゃらに舌を絡ませていく。  それに悠人が応えるものだから勢いが増していった。  互いの息が荒くなるほどキスをして、それだけでは足りなくて、筋肉のあまりない身体をまさぐっていく。  手は徐々に下がっていき、男の証に触れた。そこが堅くなっているのが嬉しくて、悠人も嫌がっていないことに舞い上がったまま、握りこんだ。 「んんっ!」  抗議の声をキスで塞いで、細い悠人に体重をかけないように片腕で自分の体重を支えながら手の動きを次第に大きくしていけば、止めようとしているのか悠人が腕を握りこんできた。 「これ……いや?」  僅かに唇を離し訊ねる。ここで嫌だと言われても止められないが、紅潮した悠人の顔があまりにも色っぽくて綺麗で、僅かに涙を溜めて潤む瞳が今まで以上に中西を興奮させた。 「ぁっ!」 「ごめん、もう止まんないから」  扱きながら、悠人の艶姿を頭に焼き付けていく。敏感なくびれを親指の腹で擦りながら手を上下させると、ぎゅっと目を閉じ緩く首を振り始めた。入院している間ハサミを入れていない黒い髪が、そのたびに淡いグリーンのシーツを打った。 「っ!」  そのコントラストが艶めかしてく、手の動きを速くしていくと、悠人の細い指が筋肉質な腕に食い込んできた。 「なかにし……もっ!」 「達きそう? 達って良いよ……感じてる井ノ上の顔、もっと見せて」 「やっ……ぁぁ!」  堪えに堪えた悠人が顔を歪め腰を跳ねさせ、先端から精液を迸らせた。手に腰を打ち付けるようなその動きに、ゴクリと唾を飲みじっくりと眺めていく。いつも怜悧な眼差しで見てくる悠人の、想像以上に妖艶な表情にもう我慢なんかできなかった。 「めちゃくちゃ綺麗……ごめん、ちょっと痛いかも知れないけど我慢して」  悠人の精液で濡れた指を弛緩した身体の奥へと滑らせ、二人が繋がるための場所に潜り込ませた。 「ひっ!」  達ったばかりの惚けた綺麗な顔が瞬時に痛みを堪えるものへと変わる。 「ごめんな井ノ上……」  謝っても止めることができない。精液のぬめりを借りてもきついその中に指を潜り込ませ、少しずつ広げていく。 「息して、その方が楽だと思うから……できるか井ノ上」 「だ……じょうぶ、だ……」  無理をさせているのは分かっていても、完全に理性を瓦解させた中西は早く一つになりたくて、優しくなんかできなかった。  水族館にあった球体の水槽越しに見た悠人の悲しそうな顔を思い出す。  告白なんてするつもりはなかった。デートだと思っているのもひっそりと自分の胸にしまい込もうと思った。今日だけ悠人が楽しんでくれればそれでいいと思っていた。  でも綺麗な唇から紡がれた悲しい内容と今にも儚んでしまいそうな表情に、自分だけはずっと隣にいたいと願っていることを伝えたくなった。己の存在を終わりにしようとするその心を引き留めたくて、思ってることをそのまま口にした。どうしたら悠人に伝わるのかなんて考える暇がなかった。  ひんやりと冷えた肌に触れて、自分の感情を抑えられなくて、どんどん言葉を繋いでいったら「好き」と伝えていた。霞のように儚くなっていく命を引き留められるなら、なんだってしたいと思った。自分が、この手で。  なのに、痛みを与えてしまっている矛盾。 「ごめんな」  もう一度謝って、指を増やした。 「ぃっ……んん……いい、から」  傷つけたいわけじゃない。少しでも気持ちよくなって欲しい。  指の動きを止めて奥歯を噛み締めて痛みに耐える悠人の唇を塞いだ。もう一度あの甘い快感を思い出せば、詰めた息を吐き出すのではないかと期待して。最初と同じように何度も唇を合わせて、それから小さく膨らんだ下唇だけを啄んだ。 「井ノ上……キス、して」  痛いほどに中西の腕を握っていた悠人が、ほうっと息を吐き出しながら唇を開く。すぐにその隙間に舌を潜り込ませ、堅くなっている舌に絡めていった。 「んっ」  くぐもった声を吸いながら擦りつければ、悠人も懸命に舌を絡ませてくる。そのいじらしさが愛おしくて、身体中に幸せな感情が広がっていく。 「今だったらまだ止められるけど、本当にしていい?」  口先だけの提案。本当はもう最後までしないと収まらないところまで来ていた。ここで悠人が頷いたなら果たして言葉通りに止めてあげれるか分からない。けれど、言わずにはいられなかった。  苦しんでいる表情も悲しんでいる表情も見たくない。さっきみたいに屈託なく笑って欲しい。いつも自分の隣で笑い続けて欲しい。 「気にするな……続けていいから」 「ごめん、なるべく痛くないようにするから」  キスを続け、顎の力が抜けたのを見てから指を動かしては、様子を見ながら指を増やした。時間をかけて三本の指が自由に動けるようになるまでじっくりと解していく。キスでとろけた表情をしても指を動かせばまた眉間に皺を寄せる悠人が、次第に身体から力を抜いていき、細い腕を中西の首に回してきた。  求められているようで嬉しくて、中西は指だけじゃなく手首を使って入り口を広げるようにそこに振動を与えた。 「んんっ」  ギュッと入り口が強く指を締め付けてくる。 (あ……もしかして)  もう一度振動を与えれば、またギュウギュウと痛いくらいに締め付けてきては、艶っぽい吐息を零す。  悠人が気持ちよくなっているのが嬉しくて、どんどんとそれを続けると、投げ出された細い足がベッドに乗り上げ、中西の身体を強く挟み込んだ。 「いい、の?」 「んっ……ぁっ」  明確な返事がなくても、その甘い声に悠人が悦んでいるのが分かる。見れば萎んでいたものがまた元気になり始めていた。自分の指に悠人が感じているのが嬉しくて、もう我慢できなかった。  そこから指を抜くと慌てて下着を下ろし、利き手の側にある細い足を肩に乗せてから、先端をそこにあてがい、ゆっくりゆっくりと挿れていった。 「ぅっ!」 「井ノ上、息を詰めないで……ゆっくりで良いから吐き出して」 「わか……てる……」  指とは比べものにならない大きさを懸命に咥え込もうとする悠人がゆっくりと息を吐き出しながら、ズンッと挿ってくるそれにまた息を詰める。どれほど慎重にしても、痛いのは悠人で、もっと気持ちよくさせたいのに、もっと大事にしたいのに、息を吐き出すたびに見せるとろけた表情に、乱暴に突き上げたい衝動をどうすることもできなかった。 「ごめんっ」  中西はベッドの縁に膝を付くと、少し抜いてはズンッと腰を打ち付けるのを繰り返し、ゆっくりゆっくりと悠人の奥を暴いていった。何度も「ごめん」を繰り返しては、痛いくらいに締め付けてくる内壁を味わった。気持ちよすぎてすぐにでも達きたくなるのを堪えて根元まで挿れると、やっと腰の動きを止めることができた。 「痛かったな、ごめん井ノ上」  離れていった中西の身体にしがみつけなかった手は、淡いグリーンのシーツを必死に掴んでは指先が真っ白になるほど力を入れている。上から包み込むように握れば、またほうと息が吐き出し、泣きそうなのにひどく艶やかな表情を見せてきた。 「……こんな時でも、井ノ上の顔ってすげー綺麗なんだな」 「なんだ、それ」  いつもの憎まれ口を上らせながら、細い指はシーツを放し中西の指に絡まってきた。握り合った手をベッドに押しつけ、中が中西の大きさに慣れるのを待ってからゆっくりと腰を左右に振ってみた。 「ぁっ」 「これ、気持ちいい? 教えて、井ノ上」 「は……ぁっ、それ……」 「ん? こうすると気持ちいいの? っ! ごめんそんなに締め付けないで……我慢できなくなる」  僅かな振動を与えるだけでぎゅっと窄まる入り口に圧迫され、中西は腰をもじつかせた。その僅かな動きですら悠人は気持ちいいようで甘い声が薄い唇から零れた。 「だーから、我慢できないって」  めちゃくちゃに腰を動かしたくなるのを必死で堪えてるのに、悠人が乾いた唇を舐めてから、小さく「いいから動け」と言いながらぎゅっと太ももで身体を締め付けてきた。

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